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有償減資とは、株主に対して出資金額を返還する実質的な減資です(会社の財産が減少)。

減資の方法には、大きく2つの方法、「有償減資」と「無償減資」の2種類があります。有償減資は、株主への払戻を伴う「実質的な減資」、一方、無償減資は、欠損填補を穴埋めするための「形式的な減資」です。

有償減資は、会計上及び税務上ともに資本取引となりますが、税務上は、減資扱いされる金額の上限が定められており、それを超える部分は、みなし配当が生じます。

今回は、「有償減資」及び「その他資本剰余金」を配当する場合の会計処理・税務処理をまとめます。

 

1. 有償減資の目的・法的性格

 

(1)有償減資の目的

株主への財産還元目的や、自己株式取得の財源を確保する目的で行われるケースが多いです。
株主へ「資本金」を、そのまま配当することできませんが、「資本金や資本準備金」を取り崩し、「その他資本剰余金」に振り替えた後は、配当が可能です。
 

(2)有償減資の法的性格

会社法上、資本金をそのまま配当することは認められていません。
会社法上、減資とは単に資本を減少させる手続であり、一旦減資により「その他資本剰余金」に振り替えたうえで、別個の手続として、剰余金の配当を行う流れとなります。
つまり、有償減資に係る会社法上の法律構成としては、資本金の減少(無償減資)+剰余金の配当の2つが組み合わさったものとして規定されています(会社法上「有償減資」という概念はない)。
有償減資を行う =その他資本剰余金からの配当を行うのと同義となります。

 

資本金の減少(無償減資) 資本金を減少させ、「その他資本剰余金」に振り替える行為
→株主総会特別決議(会社法447条)
剰余金の配当 「その他資本剰余金」を配当する行為
→株主総会普通決議(会社法454条)

 

(3)分配可能利益の規制あり

上記のとおり、有償減資は、法律上「剰余金配当」の側面を持ちますので、「剰余金の分配可能額」の財源規制を受ける点に注意が必要です。
 

2. 会計処理と税務処理の違い

有償減資は、会計及び税務上どちらも「資本取引」となります。
ただし、税務上は、「資本金等の額」の減少額が決められており、それを超えた部分は、「利益積立金額」の減少と取り扱われ、この部分は「みなし配当」と取り扱われます(法令8条1項20号、9条1項14号)。

税務上、有償減資により支払う金銭は、「当初払い込んだ資本部分の払戻し」と「利益の配当部分」の2種類で構成されていて、前者は「資本金等の額の減少」、後者は利益積立金額の減少(=配当を支払った)と考えています。

株主に支払った金銭のうち、まず①「資本金等の額」の減少部分を求め、②差引で「利益積立金」の減少部分(みなし配当)を算定します(法施令8条1項)。
 

3. 税務上減少させる「資本金等の額」の算定方法

 

(1)税務上減少させる「資本金等の額」の算定方法

 
上記の考え方より、有償減資の場合は、税務上、「資本金等の額」から減少させる金額を算定する必要があります。税務上、「資本金等の額」から減少させる金額は、以下の式となります。

201805_1-2

「資本金等の額」は、法人税別表5(1)Ⅱの金額です。
この「資本金等の額」を超える部分は「利益積立金」の減少(みなし配当)と取り扱われます。
 
上記の式の意味ですが、株主に支払った金銭には、出資額を「払い戻す部分」も含まれているため、元々出資された金額(資本金等の額)部分は「資本金等の額」から減らす!という意味です。
税務上は、株主に支払った金銭のうち、上記金額を超えた部分だけが「利益積立金」の減少 = 「配当」をしたとみなされることになります。
 

(2)資本金等の額を超えた部分の取扱い(=みなし配当)

 
支出額のうち、上記(2)で算定した「資本金等の額」を超えた部分は、「利益積立金」の減少で認識します。当該部分は、株主に対する配当とみなされ(みなし配当)、株主側には所得税が課税されます。
したがって、法人側は、有償減資の際に、株主の所得税に係る源泉徴収(20.42%)が必要となります。
 

みなし配当額 = 株主等への支払金銭等 - 左記のうち「資本金等の額」対応部分
 

4. 例題

  • 未上場会社。簿価純資産額100,000(うち、資本金15,000、資本準備金15,000)の会社が、今回有償減資を行う。
  • 有償減資の内容は、資本金2,500及び資本準備金2,500を取り崩し、「その他資本剰余金」5,000に振り替えた上、株主に5,000の交付(=配当)を行う
  • 有償減資前の、法人税上の「資本金等の額」は、30,000(→会計上の資本金15,000 + 資本準備金15,000と一致しているものとする)

(1)会計処理

 

借方 貸方
資本金の減少 資本金
資本準備金
2,500
2,500
その他資本剰余金 5,000
剰余金の配当 その他資本剰余金 5,000 現金
預り金(源泉所得税)
4,285
715
  • まず、「資本金」及び「資本準備金」を減少させ、「その他資本剰余金」に振替えます(無償減資)。
  • 次に、「その他の資本剰余金」から配当を行った処理を行います(剰余金の配当)。
    なお、貸方「預り金」は、税務上、配当とみなされる部分(みなし配当)に対応する「源泉所得税」です。この金額については、「(2)税務処理」の所で解説します。

 

(2)税務処理

税法上、配当(有償減資)で支払った金銭は「当初払い込んだ資本金等部分の払戻し」と「利益の分配部分」の2種類で構成されていると考えます。
前者は「資本金等の額の減少」、後者は「利益積立金の減少」として取り扱い、「利益積立金の減少」部分は、「みなし配当」となります(法人税法24条1)(「自己株式の取得」」の場合も、同様の論点が生じます)。

 

借方 貸方
資本金の減少(※1) 仕訳なし
剰余金の配当 資本金等の額(※2)
利益積立金額(※3)
1,500
3,500
現金
預り金(※4)
4,285
715
  • (※1)その他資本剰余金への振替は、単に「純資産の部」内での振替にすぎませんので、税務上の仕訳はありません無償減資をご参照ください)。
  • (※2)30,000(払戻直前の資本金等の額) ÷ 100,000(前期末簿価純資産)×5,000(減少資本剰余金の額)=1,500
  • (※3)5,000(交付金銭) – 1,500(上記(1)資本金等の額)=3,500 ⇒みなし配当額に対応
  • (※4)3,500 × 20.42%(源泉所得税率)=715。税務上、利益積立金額の減少部分は「配当」とみなされるため、「配当額」に対応する源泉所得税額(税率20.42%)を差し引いて支払います。

 
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なお、減少資本金等の額は、30,000(資本金等の額)×(5,000/100,000)=1,500でも算定できます。
当該計算式は、今回の交付金銭5,000が簿価純資産100,000に占める割合分だけ、資本金等の額から減少させるという式です。どちらでも構いません。

 

5. 申告書の記載例

上記例題をもとに、確定申告書の記載方法をお伝えします。
 
「有償減資」は、税務上は利益積立金からの配当部分があることから、会計処理と税務処理が異なります
税務上は「資本金等の額」と「利益積立金」を減少させる必要があるため、申告調整として、会計と税務を一致させる別表5の申告調整(振替調整)を行います。
 

(1)会計⇒税務上の修正仕訳

会計上の仕訳を、税務仕訳に合わせるための修正仕訳は以下となります。

借方 貸方
資本金等の額
利益積立金額
1,500
3,500
その他資本剰余金 5,000
  • 会計上の「その他資本剰余金」の減少額を、税務上は、「資本金等の額」と「利益積立金額」の減少に振り替える仕訳となります。

 

(2)別表4の記載

【所得の金額の計算に関する明細書】

「会計上の利益」と「税務上の所得」の差異はありませんので、別表4での加減算はありません。
ただし、「みなし配当」部分は「社外流出」となりますので、通常の配当と同様、当期利益の欄の「社外流出」欄、に「みなし配当」の金額を記載します。配当の申告処理については、NO113をご参照ください。

区分 総額 処分
留保 社外流出
当期利益 ・・・ (配当) 3,500

税務上は、「利益積立金額」減少部分は配当とみなされるため、社外流出欄に記載します。
あくまで、会計上の利益と税法上の所得の差異はありませんので、法人側は「みなし配当」により税額が増加することはありません。

 

(3) 別表5の記載

会計上の資本の減少額と、税務上の「資本金等の額」「利益積立金額」の減少額の内訳が異なりますので、別表5で、会計を税務処理に合わせる調整を行います。
上記(1)の「会計 ⇒税務修正仕訳」の内容を、別表5に転記します。

調整前の別表5は「会計処理」が転記されており、当該金額を税務処理に合わせるための調整とイメージしてもらえればと思います。
 

【利益積立金の計算に関する明細書】

区分 期首 当期中の増減 差引
利益準備金
・・・
みなし配当 3,500 △3,500
  • 上記の赤字部分が、申告調整箇所上記の赤字部分が、申告調整箇所となります。「資本金等の額」の額を超えた「利益積立金」のマイナス部分の申告調整を行います。

 

【資本金等の額の明細書】

区分 期首 当期中の増減 差引
資本金 15,000 2,500 12,500
資本準備金 15,000 2,500 12,500
その他資本剰余金 5,000 5,000 0
みなし配当 1,500 5,000 3,500
差引合計額 30,000 11,500 10,000 28,500
  • 緑の数値は、会計処理を示していますので、申告調整ではありません。
    既に、その他資本剰余金への振替処理として、「資本金」「資本準備金」はそれぞれ△2,500、その他資本剰余金は+5,000、配当により△5,000されているはずです。
  • 上記の赤字部分が、申告調整箇所となります。上記会計処理を前提に、いったん会計処理を取り消したうえ(+5,000)、税務上の資本金等の額の減少(△1,500)を計上する申告調整を行います。
  • 結論的には、「資本金等の額の明細書の差引合計額」は、期首から1,500だけ減少することになります。

なお、申告書の記載方法は自由ですので、他のやり方でも問題ありません。どの記載方法であっても、利益積立金額、資本金等の額の各合計残高は上記と一致します。

 

6. 有償減資と住民税均等割・外形標準課税への影響

有償減資により、住民税・事業税上の「資本金等の額」は減少します。したがって「有償減資」を行うことにより、①法人住民税均等割の計算②外形標準課税の資本割の課税標準が減少し、それぞれの税額が安くなります。詳しくは、「資本金等の額」をご参照ください。