No129.適格現物分配1~解散・清算の会計処理/税務処理~
「現物分配」っていうのは、「剰余金の配当」を金銭以外の資産で行うことをいいます。
例えば、配当を、現金でなく「株式」で行う場合などですね!
現物分配を活用するケースはいろいろあります。
今回は、「子会社が解散する際の残余財産を、親会社に現物分配する場合」を例題にして、会計処理・税務処理を検討します。
1.例題
- 「クレア社」の100%子会社「ビズ社」は、解散にあたり、残余財産の現物分配を行います。
- この現物分配は、金銭ではなく「土地」で行います。
- 「クレア社」保有の「ビズ社株式」簿価は100とします。
- 当該現物分配は「適格要件」を満たします。
(ビズ社の解散前事業年度 BS)
2.子会社・現物分配法人側の処理(ビズ社)
(1)仕訳(会計・税務)
「適格現物分配」に該当する場合、配当による資産の移転は、「帳簿価額」よって行われ、課税関係が生じません。
また、現物配当に関する「源泉徴収」も不要となります。
今回の現物分配は、「資本剰余金の額の減少を伴う現物分配」であるため、みなし配当事由に該当します(法法24条1項3号)。
税務上は、「出資の払戻部分」と「利益の配当部分」を算定する必要があります。(法令8条1項16号、9条1項11号)。
借方 | 貸方 | 摘要 | |||
---|---|---|---|---|---|
会計 | 資本金等の額 利益積立金 |
600 400 |
土地 | 1,000 | |
税務 | 資本金等の額(※1) 利益積立金(※2) |
600 400 |
土地 | 1,000 | 簿価譲渡のため、譲渡損益は発生しない |
(※1)資本金等の額から減算する額
払戻直前資本金等の額600 × 現物分配土地の交付直前帳簿価額 1,000 / 前事業年度の簿価純資産額 1,000
資本金等の額から払い戻す額は・・・
600 × 1,000 / 1,000 = 600
(※2)利益積立金から減算する額(みなし配当部分)
貸借差額 1,000 - 600 = 400
(2)申告調整仕訳
「会計」と「税務」で仕訳に相違はありませんので、申告調整仕訳はありません。
(3)別表の記載
税務修正仕訳がありませんので、別表4、5ともに税務申告上の調整はありません。
3.親会社・被現物分配法人側の処理(クレア社)
(1)仕訳(会計・税務)
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
会計 | 土地 | 1,000 | 子会社株式 子会社清算利益(※1) |
100 900 |
税務 | 土地 | 1,000 | 子会社株式 受取配当金(※2) 資本金等の額(※3) |
100 400 500 |
(※1)子会社清算利益
会計上は、「土地」簿価と「子会社株式」簿価の差額が「子会社清算利益」となります。
(※2)受取配当金(=みなし配当)
現物分配法人(ビズ社)で算定した「利益積立金」部分が「受取配当金」となります。
なお、「適格現物分配」により資産の移転を受けたことにより生ずる収益の額は、益金の額に算入しません。(法62条の5第4項)
(※3)資本金等の額
解散の場合、会計仕訳では「子会社株式」が減少し、「清算損益」が計上されます。
一方、税務上は、グループ法人税制適用により、「子会社株式」は帳簿価額による譲渡があったものとみなされるため、「清算損益」は計上されません。
実質的な清算損益相当額は、「資本金等の額」から加減算します。
(法61の2⑯、法令8①19,20)
(実質的な清算損益相当額=資本金等の額の増減額)
1,000(交付土地簿価)- 100(子会社株式簿価)- 400(みなし配当の金額)= 500
(2)申告調整仕訳
「会計処理」と「税務処理」が異なるため、税務申告上の調整が必要となります。
会計上は「清算損益」が計上されているのに対し、税務上は、「みなし配当」と「資本金の増減」の取扱いとなるため、申告調整を行います。
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
申告調整 | 子会社清算利益 | 900 | みなし配当 資本金等の額 |
400 500 |
(3)別表の記載
①別表4の記載
(所得の金額の計算に関する明細書)
区分 | 総額 | 処分 | ||
---|---|---|---|---|
保留 | 社外流出 | |||
当該利益 | ||||
加算 | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |
受取配当金計上漏れ(※2) | 400 | 400 | ||
減算 | 適格現物分配に係る益金不算入額(※3) | 400 | 400 | |
子会社清算利益減算(※1) | 900 | 900 |
(※1)会計上の「子会社清算利益」を減算 (申告調整仕訳 借方)
(※2)みなし配当部分を加算(留保) (申告調整仕訳 貸方)
(※3)(※2)の結果、認識された受取配当金は、「適格現物分配に係る益金不算入額」に該当するため、減算(社外流出)(法法62条の5第4項)
②別表5の記載
(利益積立金の計算に関する明細書)
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
利益準備金 | ||||
・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |
みなし配当(※4) | 400 | 400 | ||
子会社清算利益 (永久差異)(※5) |
900 | △900 | ||
繰越利益金(※6) | 900 |
(※4)別表4の(※2)に対応。
(※5)別表4の(※1)に対応。
なお、「子会社清算利益」は永久差異となるため、税効果の対象となりません。
(※6)この欄は、申告調整ではなく、元々計上済の「会計上の繰越利益」を表示しています(申告調整と区別するため斜体で表示)。
上記(※5)と同額がここに元々入っています。
(資本金等の額の明細書)
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
資本金 | ||||
・・・ | ||||
子会社清算利益(※6) | 500 | 500 |
(※6) 税務上、「資本金等の額」が増加します。 (申告調整仕訳 貸方)
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