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外貨建の取引は、取引から入出金までに「タイムラグ」があるため、為替相場変動の影響を大きく受けます。
この「為替変動リスク」を回避するため、実務では「為替予約」という手法がよく利用されます。
為替予約とは、あらかじめ、将来決済時の入出金為替レートを決めておく(予約する)取引です。
今回は「為替予約の会計処理」のうち、実務で多く利用される「振当処理」の会計処理/税務処理を解説します。
 
以下、

  • 為替予約取引は「予約取引」、実際の外貨建取引は「実取引」
  • 実取引為替レートは「直物レート」、為替予約レートは「先物レート」

と略します。


 

1. 「振当処理」の位置づけ

為替予約の会計処理には、独立処理、ヘッジ会計の2つがあり、「振当処理」は「ヘッジ会計」の会計処理方法の1つとなります。
 

原則 独立処理
例外 ヘッジ会計 原則 繰延ヘッジ or 時価ヘッジ
例外 振当処理

 
「振当処理」は、当分の間「例外」として認められている処理ですが、実務上は「振当処理」が大半を占めるといっても過言ではありません。
「振当処理」とは、為替予約等による将来の確定決済円貨で、「実取引」の会計処理を行う方法です。
振当処理の場合、為替レートの「換算差額」は、原則として「期間配分」を行います。

 

2. 振当処理の具体例

(1) 取引前予約の場合

実取引の前に「予約取引」を行った場合の例題です。
 

  • 2021年2月末に、下記仕入債務の為替リスクをヘッジする目的で、「為替予約10ドル」
    (予約レート110円/ドル)を行った(取引前予約)
  • 2021年4月末に、「ドル建仕入10ドル」を行った(実取引)
  • 仕入代金・為替予約の決済日は、どちらも2021年5月末とする。
  • 会社は3月決算。税効果は無視する。

 

(為替レート等の推移)

先物レート 2/E 110円/ドル
直物レート 予約取引日(2/E) 105円/ドル
決算日(3/E) 107円/ドル
実取引日(4/E) 112円/ドル
決済日(5/E) 114円/ドル

 

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借方 貸方 計算根拠
2/E 予約取引日(※1) 仕訳なし
3/E 決算日(※1) 繰延ヘッジ損益(BS) 30 為替予約(BS) 30 10ドル × (110円 – 107円)
4/1 翌期首 為替予約 30 繰延ヘッジ損益 30 決算日仕訳の戻し仕訳
4/E 実取引日 (※2) 仕入高 1,100 買掛金 1,100 10ドル × 110円(予約レート)
5/E 決済日 買掛金 1,100 現金 1,100

 
(※1)予約取引日の仕訳はありません。
ただし、「実取引前」に決算を迎える場合は、決算日の為替予約状況を示すため、BSのみの仕訳(繰延ヘッジ損益/為替予約)を計上します。
BS科目ですので、税法上の損益には全く関係ありません。
したがって、中小企業では、あえて仕訳しない会社もあると思われます。
 
(※2)取引前予約の場合は、実務上の便宜を考慮し、実取引を「予約レート」で換算する簡便的な会計処理が認められています
(外貨実務指針8条)。
この「簡便処理」を行えば、実取引は予約レートで換算するだけですので、非常に簡単です(「為替予約差額」配分の論点はなし)。


 

(2) 取引後予約の場合

実取引の後に「予約取引」を行った場合の例題です。

  • 2021年1月末に、「ドル建仕入10ドル」を行った(実取引)
  • 2021年2月末に、上記仕入債務の為替リスクをヘッジする目的で、「為替予約10ドル」
    (予約レート110円/ドル)を行った (取引後予約)
  • 仕入代金・為替予約の決済日は、どちらも2021年5月末とする。
  • 会社は3月決算。税効果は無視する。

 

(為替レート等の推移)

先物レート 2/E 110円/ドル
直物レート 実取引日(1/E) 103円/ドル
予約取引日(2/E) 105円/ドル
決算日(3/E) 107円/ドル
決済日(5/E) 114円/ドル

 

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借方 貸方 計算根拠
1/E 実取引日 (※1) 仕入高 1,030 買掛金 1,030 10ドル × 103円(直物レート)
2/E 予約取引日(※2) 為替差損益 20 買掛金 20 直々差額・・10ドル × (105円 – 103円)
前払費用 50 買掛金 50 直先差額・・10ドル × (110円 – 105円)
3/E 決算日(※3) 為替差損益 16.7 前払費用 16.7 50 × 1カ月/3カ月
(直先差額期間按分)
5/E 決済日 為替差損益 33.3 前払費用 33.3 50 × 2カ月/3カ月
(直先差額期間按分)
買掛金 1,100 現金 1,100 10ドル × 110円 (予約レート)

 
(※1)実取引日の仕訳は、その時点の直物レートで換算します(他の外貨建債権債務と同様)。
 
(※2)予約取引日は、実取引日の「直物レート」と「先物レート」の差額につき仕訳を行います。
 この「差額」は、下記の2つの内容に区分されますので、会計処理が異なります。

直々差額 実取引日と予約取引日の直物レートの差額です。
当該差額は、単純に実取引(買掛金)にかかるレート変動による差額ですので、予約取引日の一括費用となります。
直先差額 予約取引日の直物レート先物レートの差額です。
当該差額は、単純に両国の金利差を示す差額ですので、支払利息等と同様に、期間按分を行います。

 
(※3)直先差額のうち、3月まで対応分(1/3か月)を為替差損益に振り替えます。


 

3. 「取引後予約」に関する簡便的な処理(税務)

「取引後予約」の場合、税務上は、実務上の便宜を考慮して、簡便処理が認められています。
この簡便処理がありますので、実際は、上記2(2)のように「直々差額」と「直先差額」で区分処理している会社は・・
意外と少ないかもしれません。


 

(1) 簡便処理の内容

短期外貨建資産等(事業年度終了日翌日から一年内に決済されるものに限り、為替予約差額を、当該事業年度に一括計上OK(法61の10③)

 
つまり、短期で決済される為替予約については、予約取引日の仕訳は、直々、直先にわけることなく、すべての為替差損益(実取引日の「直物レート」と「先物レート」との差額)を、予約日が属する年の損益にしてもよい!ということです。


 

(2) 要件

外貨建資産等の期末換算方法等の届出書」を税務署に提出。
(提出期限:選定しようとする事業年度の確定申告書の提出期限まで)


 

4. 仕訳例

上記2(2)取引後予約と同じ事例を前提として、仕訳例を記載します。

借方 貸方 計算根拠
1/E 実取引日 仕入高 1,030 買掛金 1,030 原則と同じ
2/E 予約取引日(※) 為替差損益 70 買掛金 70 直々 + 直先差額・・
10ドル × (110円 – 103円)
3/E 決算日 仕訳なし
5/E 決済日 買掛金 1,100 現金 1,100 原則と同じ

(※)簡便法では、直々・直先を分けることなく、単純に「直物レートと先物レートの差額」をすべて「為替差損益」で計上します。


 

5. 留意事項

既に、為替予約差額の期間配分を実施済の外貨建資産等(長期外貨建資産等)は、たとえ「短期外貨建資産等」に該当することとなった場合も、簡便処理は認められず、引き続き「期間配分処理」を行わなければいけません(令122条の9②)。

 

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