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中小企業倒産防止共済は「経営セーフティ共済」とも呼ばれ、国(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営する共済制度です。
得意先の倒産などの「不測の事態」が生じた場合、あるいは急に資金が必要になった場合も、掛け金に応じて「無担保・保証人なし」で借入が可能な制度です。

一方、実務上は、掛け金の「全額が損金」となる点で、決算節税対策として有効な制度です。
法人だけでなく、個人事業主も加入できる点で、節税の観点でこの制度を活用される方が多いかもしれません。
今回は、倒産防止共済の「解約返戻金」の課税関係や、法人成りした場合の取扱いを中心にお伝えします。
 

1.倒産防止共済の特徴(メリット)

倒産防止共済は中小企業だけでなく、個人事業主も加入可能です。
掛け金上限800万円まで積立ができ、解約はいつでも可能、納付月数が40カ月以上であれば元本が保証されます。

貸付を受けられる
  • 得意先の倒産等で資金繰りが悪化した場合、払込掛金の最大10倍までの借入が可能(実際損害額が上限)
  •  取引先が倒産していない場合でも、運転資金の貸付(一時貸付金)が可能
    (最大で納付掛金の95%相当額)
掛金が全額損金になる 掛金は「全額損金」。また、1年分前納が可能で、全額損金可能なため、決算対策として非常に有効
40カ月以上で掛け金は100%戻る 40ヶ月以上掛け金を納付していれば、掛け金は全額戻ってくる

 

2.倒産防止共済の注意事項(デメリット)

上記のメリットはありますが、注意事項は以下の通りとなります。

貸付金には実質利息あり 貸付は「無利息」と記載されているが、貸付額の1/10の額が払込掛金から控除されるため、実質は「利率10%」
解約時に課税される 掛けるときは節税になるが、「解約返戻時」には税金がかかる(単なる税金の繰延)
返戻金が掛け金を下回る場合あり
  • 「任意解約」は可能だが、納付期間40カ月以下だと、元本割れする。
  • 12カ月未満だと、返戻金は0%

 

3.加入要件

(1)起業1年目は加入できない

倒産防止共済は、1年以上事業を継続している中小企業者(法人又は個人事業主)であることが要件となります。つまり、起業1年目は加入できない点注意が必要です。
なお、法人成りしてから1年未満の会社でも、個人事業として開業後、1年以上経過していれば加入可能です。
 

(2)法人・個人事業主どちらも加入可能

法人だけでなく、個人事業主も加入可能です。

 

(3)個人事業主の不動産賃貸事業等は経費不可

加入条件ではありませんが、個人事業の場合、事業所得以外の収入(不動産所得等)には、掛金の必要経費としての算入が認められません。例えば不動産賃貸業では、個人事業主の場合、損金算入ができませんので、節税という観点では加入するメリットがないことになります。
法人の場合は制限ありませんので、不動産賃貸業等の場合は、法人成りも選択肢の1つとなります。
 

(4)業種ごとの規模要件

業種ごとに、資本金、従業員の規模要件があります。以下の通りです。
 

業種 資本金要件 常時使用従業員要件
製造業、建設業、運輸業その他の業種 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
サービス業 5,000万以下 100人以下
小売業 5,000万以下 50人以下
ゴム製品製造業(一部業種を除く) 3億以下 900人以下
ソフトウェア業or情報処理サービス業 3億円以下 300人以下
旅館業 5,000万以下 50人以下

(※)「資本金要件」と「常時使用従業員要件」は、どちらか満たせばOKです。

(組合)
企業組合、協業組合、共同生産、共同販売等の共同事業を行っている事業協同組合、事業協同小組合、商工組合

なお、医療法人、農事組合法人、NPO法人、森林組合、農業協同組合、外国法人など)は加入対象になりません。

 

4.解約時の返戻金の取扱い

解約時期は任意ですので、生命保険の解約返戻金のように、解約金のピークを気にする必要はありません。
任意解約の場合、納付期間40カ月以上で元本保証、12か月以上で少なくとも80%以上は返戻されます
ただし、12か月未満の場合は、返戻率0%となりますのでご留意ください。
 

(1)解約の種類・解約返戻率

解約返戻金は、解約の種類と、掛け金払込月数により異なります。

解約の種類は以下の3種類です。

任意解約 契約者が任意に行う解約
みなし解約 契約者の死亡(個人事業の場合)、会社解散、会社分割、事業全部譲渡、法人成りの場合
機構解約 12カ月以上の掛け金の滞納や不正による貸付があった場合

なお、「機構解約」の場合でも、解約から1年経過すれば、再加入も可能です。
 

(解約事由ごとの解約返戻率)

12ヵ月未満 12か月以上
24ヵ月未満
24カ月以上
30ヵ月未満
30カ月以上
36ヵ月未満
36カ月以上
40ヵ月未満
40ヵ月以上
任意解約 0% 80% 85% 90% 95% 100%
みなし解約 0% 85% 90% 95% 100% 100%
機構解約 0% 75% 80% 85% 90% 95%

 

(2)解約時の返戻金には税金がかかる(単なる課税の繰り延べ)

倒産防止共済を解約した際に返戻される金額は「益金」となります。つまり全額課税対象となります
同様の個人向けの共済制度である「小規模企業共済」の場合は、返戻金が原則として「退職所得」や「公的年金等雑所得」とりますので、ここは大きな違いです。
つまり・・倒産防止共済は、節税の観点では単なる課税の繰り延べにすぎず、「小規模企業共済」のような課税の圧縮効果はありません。
 

(3) 出口戦略

解約返戻時には「益金」となり課税されます。ですので、加入の際は、しっかりと「出口」を考えておく必要があります。

(エグジットの例)

  • 赤字年度にタイミングよく解約する。繰越欠損金繰越可能な10年間を考慮の上解約する。
  • 退職金等の損金が見込まれる年度に解約する。

 

5.法人成りした場合は?

倒産防止共済は個人事業主も加入できますので、将来的に「法人成り」した場合の取扱いも気になるところです。
下記にまとめておきます。
 

(1)契約上の取扱い

個人事業主が法人成りした場合でも、法人で加入要件をみたしていれば、契約を引継ぐことは可能です。この場合、個人事業主の時に支払った掛け金も通算可能です。要件は以下の通り

  • 加入資格を満たしていること(中小企業者であるなど)
  • 現契約における共済金や一時貸付金の返済、および違約金の支払いの義務を引き受けること
  • 法人成りしてから3ヶ月以内に申し込みをすること

(必要書類)

●法人・個人事業主それぞれの印鑑登録証明書
●法人の履歴事項全部証明書
 

(2)税務上の取扱い

ただし・・税務上は注意が必要です。法人成り時点で、個人⇒法人に時価で売却したという取扱いになるものと思われます。具体的には、法人成り時点の「解約手当金相当額」(=時価)で売却したと考え、個人側に課税されると考えます。
 

例 法人成り時点の解約返戻金が300万円の場合

 

①個人側

借方 借方
未収入金 3,000.000 雑収入(事業所得) 3,000,000

個人側は、法人から解約返戻金相当額のお金をもらう必要があります。
倒産防止共済は、事業のために加入し、事業に関連した「解約手当金」となるため、一時所得ではなく事業所得となります。一時所得に認められる50万円の特別控除はありません。
 

②法人側

借方 借方
保険積立金(資産) 3,000,000 未払金 3,000,000

一方で、法人から個人に対し、解約返戻金相当額を支払う必要があります。この支払額は損金になりません。なぜなら。倒産防止共済の掛け金は、「租税特別措置法の優遇措置」により経費にできる規定があるにすぎないため、法人が個人から「買い取る解約返戻金相当額」は「優遇措置の対象にならない」と考えられるためです。

つまり・・法人成りした場合、任意解約と同様に課税されるという結論になるものと思われます。
特に、倒産防止共済の掛け金は、過去に損金処理が行われており、上限が800万までのため、法人成り直近の決算では支払っていない場合もあり、存在の有無に気づかないケースもあります。十分注意が必要です。

(直接の規定ではありませんが、所得税上は以下の規定があります)

所得税基本通達36・37共-18
保険期間が3年以上で、かつ、当該保険期間満了後に満期返戻金を支払う旨の定めのある損害保険契約(これに類する(共済に係る契約を含む・・・保険料の金額のうち、積立保険料に相当する部分の金額は保険期間の満了又は保険契約の解除若しくは失効の時までは、当該業務に係る所得の金額の計算上資産として取り扱うものとし・・

 

6.掛け金や受取方法

掛け金月額 5,000円~200,000円まで、5,000円単位で自由に設定可能。
増額減額・掛け止めは?
  • 途中で増額・減額も可能。ただし、減額には、事業規模の縮小等の理由が必要
  • 掛金総額が掛金月額の40倍以上に達している場合、掛金の払込みを止めることが可能
納付方法
  • 月払・半年払・年払が選択可能
  • 掛け金前納が可能。例えば、12月に1年分を支払うことで、最大240万円の損金が可能(一定の前納減額金、割引あり)。ただし、1年以上前納しても「1年超分」は損金扱いにはならない。
  •  1年前納は、毎年申請手続きが必要。申請しない場合は、月払に自動変更。前払するには、前払する月の5日までに申請手続が必要。
受け取り方法 分割での受取は不可。一括受取のみ。

 

7.小規模企業共済との比較

倒産防止共済 小規模企業共済
元本保証 40カ月以上 20年以上(任意解約の場合)
掛け金上限 年間240万円(累計上限800万円まで) 年間84万円(累計上限なし)
加入制限 1年未満事業者は× 年度の制限はなし
掛け金減額理由 事業規模縮小等の理由が必要 不問
解約返戻金 事業所得 退職所得・雑所得・一時所得

 

8.Youtube

 
YouTubeで分かる「【倒産防止共済】個人事業主も加入可能!解約タイミングや返戻率は?/法人成りの問題点は?」
 

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