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前回の続きになります。
経営者の方なら、一度は「自分の役員報酬をいくらにすればよいか?」を考えたことがあると思います。
役員報酬を高く設定すれば、法人税は安くなる一方、個人所得税と社会保険料は高くなります。
コストが一番安くなる「役員報酬」の額を設定したい!というのは、経営者として当然の検討事項だと思います。
 
しかし、この論点は、①社会保険と②税金へのインパクトという「2ファクター」を考慮する必要があるため・・なかなか難しい論点になります。
前回、①社会保険への影響についてお伝えしましたので、今回は②税金へのインパクト(「所得税率」と「法人税率」の比較)という観点で、役員報酬の適正価額を探ります。
 
今回のテーマは、あくまで方向性を示すことが趣旨ですので、その点ご了承ください。


 

1. 法人税率(2020年10月以降開始する事業年度)

中小企業の「法定実効税率」は、年間所得800万円までは約21%程度です
(年間所得800万円を超える金額は、32%程度)。


 

2. 個人の給与にかかる税額(所得税)

個人の給与にかかる税額は、以下の計算式で算定されます。

(給与 – 給与所得控除 – 各種控除)× 所得税率


 

(1) 給与所得控除

給与については、額面金額に応じた「給与所得控除」という「経費」が自動的に認められます。
 

(給与所得控除の率)令和2年以降

給与の額 給与所得控除の額
以下
55万円 55万円
55万円 180万円 収入 × 40% – 10万円
180万円 360万円 収入 × 30% + 8万円
360万円 660万円 収入 × 20% + 44万円
660万円 850万円 収入 × 10% + 110万円
850万円 195万円(上限)

 


 

(2) 所得税率

所得税等の税率は、以下の通りです。
参考に、課税所得に対する税金負担率の目安を「一番右」に記載しています。
 

(所得+住民税+復特所得税率。事業税は除く)

所得税 住民税 参考
(所得+住民税率)
実行税率
課税所得 税率 控除額
(円)
税率
以下
0円 195万円 5% 0 10% 15.1%
195万円 330万円 10% 97,500 10% 15.1%~17.2%
330万円 695万円 20% 427,500 10% 17.2%~24.1%
695万円 900万円 23% 636,000 10% 24.1%~26.3%
900万円 1,800万円 33% 1,536,000 10% 26.3%~35.0%
1,800万円 4,000万円 40% 2,796,000 10% 35.0%~43.7%
4,000万円 45% 4,796,000 10% 43.7%~
  • 事業税(※)は、算定方法が異なるため「上記表」には含まれていない。
  • (※)個人事業税の計算(事業所得 – 290万)× 5%(業種によって%は異なる)


 

3. 具体例(1人社長の場合)

オーナー社長1人のみの会社を前提に、役員報酬差引前利益パターンごとに、シミュレーションします。

(前提条件)

  • 社長個人の所得控除は、100万円あるものとする。
  • 法人税は、実効税率21%で計算する(均等割は無視)。
  • 簡便的に、住民税率は課税所得 × 10%で算定する。
  • 簡便的に、個人事業税は無視する。


 

(1) 法人利益(役員報酬差引前) 600万円の場合

例えば、法人に利益300万円を残して、個人に300万円の報酬を支払う場合は、
法人税 約63万円 + 個人所得税 約16万円 = 合計税額 約79万円になります。
配分パターンごとの税額をまとめると、以下の表のとおりとなります(以下の表、すべて同様です)。
 

(記載税額は概算金額)
法人の利益/
社長の報酬
法人300万
社長300万
法人200万
社長400万
法人100万
社長500万
法人利益0円
社長600万
法人税 63万円 42万円 21万円 0円
所得税 16万円 27万円 42万円 58万円
合 計 79万円 69万円 63万円 58万円
  • 法人利益をゼロにし、利益部分は全額報酬で支払う方が税金総額は安くなる。


 

(2) 法人利益(役員報酬差引前) 700万円の場合

(記載税額は概算金額)
法人の利益/
社長の報酬
法人300万
社長400万
法人200万
社長500万
法人100万
社長600万
法人利益0円
社長700万
法人税 63万円 42万円 21万円 0円
所得税 27万円 42万円 58万円 84万円
合 計 90万円 84万円 79万円 84万円
  • 法人利益(役員報酬差引前)が、700万円程度を超えてくると、法人に若干利益を残した方が、税金総額は安くなる。


 

(3) 法人利益(役員報酬差引前) 800万円の場合

(記載税額は概算金額)
法人の利益/
社長の報酬
法人300万
社長500万
法人200万
社長600万
法人100万
社長700万
法人利益0円
社長800万
法人税 63万円 42万円 21万円 0円
所得税 42万円 58万円 84万円 111万円
合 計 105万円 100万円 105万円 111万円
  • 同上


 

(4) 法人利益(役員報酬差引前) 1,200万円の場合

(記載税額は概算金額)
法人の利益/
社長の報酬
法人300万
社長900万
法人200万
社長1000万
法人100万
社長1100万
法人利益0円
社長1200万
法人税 63万円 42万円 21万円 0円
所得税 139万円 170万円 203万円 236万円
合 計 202万円 212万円 224万円 236万円
  • 法人に300万以上利益残した方が、税金総額は安くなる。


 

(5) 結論

以下の結論となりました。

  • 1人会社の場合、法人利益(役員報酬差引前)600万円程度までは、全額役員報酬で支払う方が、税金総額は安く収まる。
  • 1人会社の場合、法人利益(役員報酬差引前)が600万円程度を超えてくると、少し法人に利益残した方が、税金総額は安くなる。
  • 所得控除の額は各人異なるため、各人の状況で利益分岐点は変動する。


 

4. 配偶者に給料を支給する場合

所得税は「累進課税」のため、所得が多くなれば「税率」は高くなります。
したがって、例えば、社長1人に600万円支払うよりも、社長300万円、配偶者300万円など「分散」して支払う方が「家族全体の所得税」は安くなります(所得分散効果)。
 
上記の例をもとに、法人利益(役員報酬差引前)を、社長と配偶者に折半で支払った場合を検討します。
結論的には、1人社長だけに役員報酬を支払う場合と比べて①税金総額は安くなり、②全額報酬で支払って税金総額が安く収まる「法人利益」の上限は上昇します。

(前提事項)

  • 1人社長以外に、奥様が役員として勤務している。
  • 所得控除は社長100万円、奥様50万円あるものとする。
  • 法人税は、実効税率21%で計算する(均等割は無視)。
  • 簡便的に、住民税率は課税所得 × 10%で算定する。
  • 簡便的に、個人事業税は無視する。


 

(1) 法人利益(役員報酬差引前) 600万円の場合

(記載税額は概算金額)
法人の利益/
社長の報酬
奥様の給与
法人300万
社長150万
奥様150万
法人200万
社長200万
奥様200万
法人100万
社長250万
奥様250万
法人利益0円
社長300万
奥様300万
法人税 63万円 42万円 21万円 0円
所得税(社長) 0円 5万円 11万円 16万円
所得税(奥様) 8万円 13万円 18万円 23万円
合 計 71万円 60万円 50万円 39万円
  • 法人利益をゼロにし、利益部分は全額報酬で支払う方が税金総額は安くなる。
  • 1人社長に全額払する場合と比べて、配偶者と折半する方が税金総額は安くなる。


 

(2) 法人利益(役員報酬差引前) 700万円の場合

(記載税額は概算金額)
法人の利益/
社長の報酬
奥様の給与
法人300万
社長200万
奥様200万
法人200万
社長250万
奥様250万
法人100万
社長300万
奥様300万
法人利益0円
社長350万
奥様350万
法人税 63万円 42万円 21万円 0円
所得税(社長) 5万円 11万円 16万円 21万円
所得税(奥様) 13万円 18万円 23万円 29万円
合 計 81万円 71万円 60万円 50万円
  • 同上


 

(3) 法人利益(役員報酬差引前) 800万円の場合

(記載税額は概算金額)
法人の利益/
社長の報酬
奥様の給与
法人300万
社長250万
奥様250万
法人200万
社長300万
奥様300万
法人100万
社長350万
奥様350万
法人利益0円
社長400万
奥様400万
法人税 63万円 42万円 21万円 0円
所得税(社長) 11万円 16万円 21万円 27万円
所得税(奥様) 18万円 23万円 29万円 36万円
合 計 92万円 81万円 71万円 63万円
  • 同上


 

(4) 法人利益(役員報酬差引前) 1,200万円の場合

(記載税額は概算金額)
法人の利益/
社長の報酬
奥様の給与
法人300万
社長450万
奥様450万
法人200万
社長500万
奥様500万
法人100万
社長550万
奥様550万
法人利益0円
社長600万
奥様600万
法人税 63万円 42万円 21万円 0円
所得税(社長) 34万円 42万円 50万円 59万円
所得税(奥様) 44万円 52万円 62万円 74万円
合 計 141万円 136万円 133万円 133万円
  • 法人利益(役員報酬差引前)が1,200万円程度を超えてくると、法人に若干利益を残した方が、税金総額は安くなる。
  • 1人社長に全額払する場合と比べて、配偶者と折半する方が税金総額は安くなる。


 

(5) 結論

配偶者に報酬を支払う場合は、1人社長に全額報酬を支払う場合と比較して、以下の結論が得られました。

  • 全額報酬で支払っても税金総額が安く収まる法人利益(役員報酬差引前)の上限は上昇する(1人社長のみの場合600万円 ⇒ 配偶者折半の場合1,200万円)。
  • 所得分散効果により、家族全体の所得税総額は安くなる。



 

5. 注意点

あくまで今回は、役員報酬が与える「税金」へのインパクトの論点に絞っています。
前回お伝えした通り、役員報酬の額は、社会保険にも影響します。
 
前回、社会保険の費用対効果の観点では、「役員報酬金額は少ないほうが効果的」という結論になりましたので・・それとの比較になります。
難しいですね・・
結論的には、「高すぎず、安すぎず、生活できるレベルでそこまで高くない役員報酬の設定で、社会保険と税金を抑える」というくらいが無難ではないでしょうか。

 

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