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経営者の方なら、一度は「自分の役員報酬をいくらにすればよいか?」を考えたことがあると思います。
役員報酬を高く設定すれば、法人税は安くなる一方、個人所得税と社会保険料は高くなります。
コストが一番安くなる「役員報酬」の額を設定したい!というのは、経営者として当然の検討事項だと思います。
しかし、この論点は、①社会保険と②税金へのインパクトという「2ファクター」を考慮する必要があるため・・なかなか難しい論点になります。
 
そこで、まず今回は、①社会保険の観点、つまり「厚生年金支払額」と「将来受け取る年金」の費用対効果の観点で、「役員報酬」の適正価額を探ります(健康保険は無視します)。
次回は、②税金の観点で役員報酬の適正価額をまとめます。

 

1. 厚生年金保険の支払と受取の関係

(1) 毎月支払う厚生年金保険料の額

2020年6月時点の「厚生年金保険料率」は18.3%です。
実は、この「料率」・・どんどん上昇していっています。
保険料の負担は「法人」「従業員」の折半となりますが、オーナー社長の立場では、「法人」「個人」負担額どちらにしても、結局、自分の財布から出ていくので、あまり「両者を区別」する意味はありません。
したがって、オーナー社長の立場で「厚生年金」の費用対効果を検討する場合は、折半した「従業員負担額」ではなく、支払総額(=法人 + 従業員負担額合計)をコストとして意思決定すべきことになります。
 
例えば、2020年現在、役員報酬を10万円(標準報酬月額98,000円)に設定した場合、毎月年金事務所に支払う額は、17,934円(98,000 × 18.3%)となります(会社負担額・従業員負担 各8,967円)。
オーナー社長の場合、この金額を将来回収できるか?という観点で、意思決定を行います。


 

(2) 将来受け取る年金の額

厚生年金に加入すれば、国民年金も自動加入となり、将来的には「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の両方を受け取ることができます(10年以上支払わないと「受給権」はありません)。
 
例えば、2020年現在、役員報酬を10万円に設定した場合、1か月厚生年金を支払うごとに、毎月受け取る年金は2,173円増えていく計算になります(2003年4月以降加入の場合)。

  • 老齢基礎年金・・780千円 ÷ 480か月(12ヶ月 × 40年)= 1,625円
  • 老齢厚生年金・・100千円 ×(5.481/1,000)× 1ヶ月 = 548円

合計2,173円
(受取額の計算方法は「コチラ」をご参照ください)


 

(3) 費用対効果は?

上記の支払と受取をまとめると、例えば、役員報酬を10万に設定した場合、「17,934円/月の支払に対して、将来2,173円/月を受け取れる」ということになります。
もちろん、長生きすればするほど年金の「受取期間」は長くなりますので、どこかで損益分岐となる(=回収できる)時期が来るはずです。
 
具体例で計算してみます。


 

2. 回収期間の具体例(1人社長の場合)

1人会社(オーナー社長1人のみの会社)を前提にします(他の従業員はいない)。

  • 2020年4月に40歳で会社を設立し、自分の役員報酬を10万円/月と設定した。
  • 今後20年間、役員報酬10万円(増減なし)に対応する厚生年金を支払うものとする。
    (厚生年金支払額 17,934円/月、将来の年金受取額 2,173円/月(2020年現在))
  • 40歳までに支払っていた国民年金・厚生年金等は無視。

 

① 厚生年金支払総額(20年)

17,934円/月 × 240か月(20年)= 4,304千円

② 将来毎年受け取れる年金(65歳以降)

2,173円/月 × 240か月(20年)= 521千円

③ 回収期間

上記① ÷ ② ⇒ 4,304千円 ÷ 521千円 = 約8.3年

④ 結論

20年間、役員報酬10万に対応する厚生年金を支払った場合、8.3年で回収できる
(=65歳支給開始の場合は、73.3歳くらいで元が取れる)。

 
平均寿命を考えると、役員報酬10万の場合は、意外とお得かもしれませんね。


 

3. 役員報酬を2倍にした場合、受取額は2倍になる?

では、役員報酬の額を、倍の「20万円/月」に設定した場合、支払額と受取額の関係はどうなるでしょうか?
まず、役員報酬が倍になれば、毎月の年金「支払額」は、おおむね「倍」になります。
 
ということは、将来の年金受取額も「倍」の結果になれば、役員報酬10万円/月の場合と同様に、「おおむね8.3年程度」で、元が取れる計算になります。
 
検証してみます。
 

(20年間 厚生年金を支払った場合)

役員報酬金額 年金支払総額(A) 増加割合 年金受取額(B) 増加割合 回収期間(C)=(A)÷(B) 回収年齢 65歳+(C)
10万円 4,304千円 1倍 521千円 1倍 8.2年 74歳
20万円 8,784千円 2倍 653千円 1.25倍 13.5年 79歳
30万円 13,176千円 3倍 784千円 1.5倍 16.8年 82歳
40万円 18,007千円 4倍 916千円 1.75倍 19.7年 85歳
50万円 21,960千円 5倍 1,047千円 2.0倍 21.0年 86歳


 

(1) 結果

上記の表でわかるとおり、役員報酬を2倍にした場合、厚生年金支払額は概ね2倍になりますが、将来の年金受取額の増加割合は1.25倍程度にとどまっています。
つまり・・役員報酬を2倍にしても、受取額は1.25倍程度にとどまり、結論「役員報酬を倍にして厚生年金支払額が増えても、受取額で回収できる期間は従前より長くなる」・・という結果に至りました。
 
何歳まで生きるか?なんて誰もわからないですが・・回収期間が長くなるリスクを考えると、社長自身の役員報酬は、10万程度が一番無難なのかもしれませんね。


 

(2) ご参考~年金受取額の計算根拠~

役員報酬金額 受取額/月 受取額/240カ月
老齢基礎年金(固定) 老齢厚生年金 合計
100千円 1,625円 548円 2,173円 521千円
200千円 1,625円 1,096円 2,721円 653千円
300千円 1,625円 1,644円 3,269円 784千円
400千円 1,625円 2,192円 3,817円 916千円
500千円 1,625円 2,740円 4,365円 1,047千円

 
「老齢基礎年金」受取額は、役員報酬に比例しない「固定額」。
つまり、役員報酬が低い間は「老齢基礎年金」の構成割合が大きく、支払と受取額が比例しない原因となる。

 

4. 厚生年金はお得なのか?

(1) 厚生年金は相当お得

上記より、役員報酬を増額した場合、厚生保険の「費用対効果」はそこまで高まらないことがわかりました。
ただし、この結論は「厚生年金自体の加入が損」と言う結論では全くありません。
 

なぜなら、厚生年金に加入=国民年金に自動加入となる結果、「少ない支払金額で将来の年金受取額は増える」ためです。
国民年金支払額は一律16,540円/月(2020年現在)に対し、役員報酬10万の場合の厚生年金支払額は17,934円。
毎月の支払は1,000円程度多くなりますが、将来受け取る額は、国民年金だけの方と比べて、548円/月も多くなります。
 

単純に換算すると、毎年の厚生年金支払額は、「将来年金を2年弱受け取れば回収できる」(1,000円 ÷ 548円 = 1.82年)という計算になりますので、「相当お得」という結論になります。


 

(2) 配偶者がいる場合はもっとお得

また、配偶者がいる場合は、上記よりも、もっと「お得」な結論になります。
配偶者は「第3号被保険者」となり、①国民年金保険料の支払義務がなくなるにもかかわらず、②国民年金は加入している取扱いとなりますので、仮に20年間「厚生年金」に加入した場合、以下のプラスがあります。
 

国民年金支払義務免除によるプラス 16,540円/月(毎月支払うはずだった国民年金支払額)
将来受け取る年金増加額のプラス 19,500円/月(毎月受け取ることになる国民年金額)
合計 36,040円/月

 
厚生年金を支払うだけで、配偶者分として、毎月36,040円得をしていることになります。



 

5. 1人社長の場合の結論

以下の結論になりました。

  • 国民年金と比較すると、厚生年金加入のメリットは非常に大きい。
  • ただし、将来の回収期間を考慮すると、役員報酬は低めに抑える方がお得。

 
なお、配偶者がいる場合のプラス分は、あくまで「国民年金自動加入の恩典」ですので、「役員報酬の額」にかかわらず回収期間が「固定年数縮まる方向」であり、役員報酬額をいくらに設定するか?という意思決定には、直接的には影響ありません。



 

6. 従業員の立場の場合

上記は、あくまでオーナー社長自身の「役員報酬」にかかる厚生年金のお話ですので、従業員の立場の場合は、支払額は「個人負担部分(半分)」だけで回収の意思決定を行うことになります。
したがって、従業員の場合、「回収期間」は1人社長の場合の「約半分程度」になります。
例えば、額面30万の場合の回収期間は8年程度、額面50万の場合の回収期間は10年程度と試算されますので、だいぶお得感がありますね。
つまり・・従業員の場合は「厚生年金」を会社が半分負担してくれているので、かなりお得な恩典を受けている、ということがわかります。

 

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