No270 【AI税務調査】次世代国税総合管理システム(KSK2)への完全移行で、これからの税務調査はどう変わるのか?対応方法/メリットは?

国税庁の基幹システム「国税総合管理システム(KSK)が、2026年9月24日から、次世代システム「KSK2」に完全移行します。今回の移行は、単なるシステム更新ではなく、「税務調査のあり方」そのものを大きく変えるものと注目されており、これまでの紙・書面中心の運用から、データを前提とした調査へと変化していくことが予想されます。
今回は、KSK2移行による「税務調査や実務への影響等」につき解説していきます。
目次
1. KSK2(国税庁 次世代国税総合管理システム)とは?
(1) KSK2移行の背景
KSK(国税総合管理システム)とは、全国の国税局・税務署をネットワークで結び、申告・納税情報を一元管理する国税庁の基幹システムです。KSKには、過去約20年分のお金の流れなどが蓄積され、「税務調査の対象選定」にも活用されていますが、データ連携や処理速度の面で時代に合わなくなってきたため、今回、約25年ぶりに新システム「KSK2」に生まれ変わります。
(2) KSK2は、単なる「税務調査AIシステム」ではない
KSK2は、「データ中心の事務処理」「税目横断的な統合」「システムの近代化」を目的とした基盤システムであり、AI税務調査のためだけに開発されたシステム、というわけではありません。KSK2は、申告・課税・収納・滞納整理・税務調査などほぼすべての国税事務を支えるインフラとなります。KSK2導入により、AI-OCR・統合データベース・外部データ連携などを前提とした「税務行政DX」の本格稼働がスタートすることになります。
2. KSK2で税務調査はどのように変わるのか?
KSK2は、「デジタル活用による税務行政DX」の中核システムとなりますが、一方で、納税者や税理士側にとっては、今後の「税務調査のレベル」が一段上がるのではないか?」という観点で注目されています。
KSK2導入による、「税務調査」への影響は以下の通りです。
(1) 税務調査の選定レベルが上がる
KSK2では、申告データだけでなく、源泉徴収票、支払調書、インボイス情報、統計データ等の外部データを活用した、「AIによるリスク分析が標準化」されることが予定されています。国税局単位で、広域的に「異常値」を抽出し、「税目横断の整合性」や「同業他社比較」などを組み合わせて調査候補を絞り込む方向性が示されています。従来の「人間による恣意的な選別」では、当たりはずれがありましたが、KSK2では、データに基づく「AIでの調査対象選定」を行うため、狙い撃ち、あるいは税金を取りやすい取引先が選別される可能性が高くなります。
(2) 税目横断・過去データ比較・外部データ連携による指摘の増加
| 税目を横断したチェック(※) | 現在のKSKでは、所得税・法人税・消費税・相続税などのデータが、「税目ごとに別々のデータベース」で管理されているが、KSK2では、これらの税目データベースが、統合データベースに一本化される。したがって、例えば、「法人税申告書」とオーナー個人の「所得税申告書」等の整合性チェックなどが容易になり、税目をまたいだ不整合があぶりだされやすくなる。 |
|---|---|
| 過去データとの比較が容易 | KSK2では、複数年の申告データが画面上ですぐに参照でき、かつ売上の年度推移、経費率の変化、業種標準値との乖離率分析などが短時間で行えるようになると思われる。 この結果、異常値が出ている科目の特定が効率的に行われ、間違いが発見されやすくなることが想定される。 |
| 相手先との帳簿不一致を拾われやすくなる | KSK2では、調査対象会社の取引先側の処理や、インボイス・マイナンバー等との整合性・不一致も拾われやすくなり、「相手側の帳簿との不一致」から指摘事項が増えるケースが想定される。 |
| 「外部データ連携」による網羅性の向上 | KSK2では、地方税情報や金融機関口座情報、国外データなど、従来は限定的だった外部データとの連携を強化する方向性が示されている。国際取引・海外資産・複数自治体にまたがる取引についても、データで整合性チェックを行うことにより、国税だけでは把握が難しかった無申告・過少申告の情報が、網羅的に把握しやすくなる。 |
(※)具体例
例えば、法人から、オーナー個人に「家賃」を支払っている場合、個人側の所得税申告書で、賃貸収入が計上されているか?金額が異なっていないか?システムで瞬時に判明することになると思われます。
(3) 調査スピードUPによる質・量の増加
従来は、調査現場先で気になる点があっても、「いったん署に戻って確認」する運用がほとんどでしたが、KSK2では、調査先から、あらゆるデータベースにアクセスできるようになります。調査現場先で過去データや関連情報を確認しながら質問を進めることができるため、調査スピードが速くなります。この結果、チェック対象となる取引量の増加や、抽出対象のレベルが一段上がる可能性があります。
3. KSK2導入による納税者側のメリットは?
上記の通り、KSK2導入による「税務調査への懸念」はありますが、デメリットだけではありません。従前から「正確な記帳と適切な申告」をしている方にとっては、納税の公正性あるいは税務調査の透明性が確保されるメリットがあります。
KSK2導入によるメリットをまとめると、以下の通りです。
| 納税の公正性 | KSK2の導入により、不正な納税回避、納税漏れを抑止することができるため、毎年適正申告している事業者の立場からは、「納税の公正性の確保」につながる。 |
|---|---|
| 税務調査のレベル差が縮小 | 従来の税務調査では、税務署や担当官によって品質にレベル差があったが、KSK2導入によりシステムが標準化され、レベルの格差が縮小すると思われる。 |
| データ処理・調査の早期化 | KSK2導入により、電子化を背景とした手続の効率化が進むため、以下の点で、税務署側の処理が早くなることが期待できる。 ● 還付申告等の還付処理の迅速化 ● 税務調査の決着が早くなる(リモートによる調査もあり) |
| 電子通知の拡大で見落としが減る | ● e-Taxで受け取れる処分通知が広がるため、郵送物の確認漏れなどを未然に防止できる。 ● 単純ミスなどは、税務署側で発見しやすくなるため、例えば、申告書提出後、申告期限到来前までに税務署がミスを発見した場合、事前通知により、修正申告のリスクが減ることが期待できる。 |
| 調査結果の根拠が明瞭になる | 担当者だけの判断ではなく、国税局全体の他社事例等をもとに調査が行われるため、調査結果につき納得しやすくなる。 |
4. 今後の税務調査への対応
KSK2は、2026年9月24日に本格稼働が予定されておりますが、その後、順次、機能拡張や様式改定等が続くものと思われます。したがって、2026年9月に急に変わるわけではなく、2026年9月を起点に、データ活用前提の税務行政が段階的に深まっていくものだと思われます。
今後の税務調査への対応については、以下の項目が挙げられます。
(1) 電子帳簿保存法への対応・帳簿・証憑の電子保存
帳簿、証憑につきデータ整備等を進め、電子帳簿保存法への対応を行うことで、即時に検索、資料の提示ができる体制にシフトしておくことが考えられます。
データ前提の税務調査に合わせて、納税者側も、ペーパーレス化、クラウドストレージ・クラウド会計への移行を進めることで、仕訳からすぐに証憑にたどり着ける、「効率的かつリアルタイムな環境」を整備することが求められます。
(2) イレギュラー数値に関する根拠資料の整理
例えば、業界平均からの乖離、あるいは法人は大赤字なのに、役員個人で高額な買い物をしているような不整合がある場合、今後は、一層指摘が入りやすくなると思われます。したがって、乖離や不整合等がある場合は、根拠資料をもとに、合理的な説明ができる準備が必要になります。
例えば、「重要取引の証憑関係」については、案件別に資料を整理する、あるいは、同業他社や、過去の自社推移と比べて異常値となっている項目(役員報酬、外注費・人件費、交際費、在庫など)は、事前に根拠資料を整理しておくことが必要になります。
(3) 税目ごとの横断性をチェックする
例えば、法人税、消費税、源泉所得税などの整合性を月次でチェックし、「税目横断」でずれがないようにしておく必要があります。
(4) 人間による合理的な説明
AI等システムによるチェックは、比較による異常値の特定は得意ですが、個別事情の判断、背景の理解は得意ではありません。例えば、新しい事業を始めた結果、売上が増加した場合、AIでは異常値で検出されますが、人間による補足説明を行うことで、合理性の担保が可能です。電子帳簿対応等とともに、会計数値の背景や、増減理由等を合理的に説明できる能力も求められます。
5. 参照URL
【納税者サービスの充実と行政効率化】
https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/report/2025/03_5.htm
https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/report/report2024/pdf/03.pdf






