無償増資の会計・税務処理/申告書の記載(利益剰余金の資本組入)
「無償増資」の代表例は、「利益剰余金」の資本組入ですね。
今回は、「利益剰余金の資本組入」を例に、無償増資の会計・税務処理/申告書の記載につきまとめます。
1. 会計処理
① 資本組入額
会計上(=会社法上)は、資本金に全額組入れることもできますし、資本準備金に組み入れることも可能です。
② 仕訳の計上時期
その効力を生ずる日。定めていない場合には、決定機関で定めた日に計上します。
2. 税務処理
① 税務上の取扱い
税務上は、「株主等から出資を受けた金額」が「資本金等の額」と取扱われます。
したがって、無償増資の場合、株主等から出資を受けるわけではありませんので、税務上の「資本金等の額」は増加しません。
なお、利益剰余金の資本組み入れを行っても、「みなし配当」は生じません。
② 申告書の記載
無償増資をした場合でも、税務上、「資本金等の額」「利益積立金の額」に影響はありません。
ただし、既に会計処理で「資本金」や「利益剰余金」などの額が増減しているため、会計処理を税務上の数字に戻すための申告調整が必要となります(後ほど、例題で説明します)。
③ 均等割への影響
上記の通り、税務上は、無償増資を行っても「資本金等の額」への影響はありません
(別表5の「資本金等の額の明細書の差引合計欄」はかわらない)。
しかし、利益準備金や利益剰余金を資本に組み入れる「無償増資」の場合は、住民税均等割の計算に影響があります。ここ、かなり注意です!
住民税均等割の計算は、別表5「資本金等の額」+「利益準備金その他利益剰余金を資本金に振替えた金額」で算定します(平成22年4月1日以後)。
つまり、無償増資によって別表5「資本金等の額の明細書の差引合計欄」に変動がなくても、均等割の金額を算定する際は、「利益準備金や利益剰余金を資本金に振替えた金額」を上乗せして計算する必要があるんですね。
詳しくは、「資本金等の額って?」を参照ください。
3. 例題
資本準備金及び利益剰余金を2,500,000ずつ「資本金」に組み入れた。
(1) 会計処理
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
資本準備金 利益剰余金 |
2,500,000 2,500,000 |
資本金 | 5,000,000 |
- 会計上は、「資本金」を増加させる処理となります。
(2) 税務処理
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
仕訳なし |
- 税務上の「資本金等の額」は、あくまで「株主等から出資を受けた金額」であり、無償増資を行っても「株主等から出資を受けた金額」に変動はありません。
したがって、税務上の仕訳はありません。
(3) 申告調整(税務修正仕訳)
会計処理と、税務処理が異なるため、「申告調整」が必要となります。
(税務調整仕訳)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
資本金 | 2,500,000 | 利益剰余金 | 2,500,000 |
- 税務上、何も仕訳がなかった形にするため、会計仕訳を取り消す調整を行います。
4. 別表の記載
申告調整(振替調整)を行います。
(1) 別表4の記載
記載はありません(会計上の「利益」と税務上の「所得」に差異はありません)。
(2) 別表5の記載
① 利益積立金の計算に関する明細書
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
利益準備金 | ||||
資本金等の額 | (※2)2,500,000 | 2,500,000 | ||
繰越剰余金 | (※1)2,500,000 | △2,500,000 |
(※1)緑の数値は会計処理を示していますので、申告調整ではありません。
既に、無償増資の会計処理として「利益剰余金」を減少させていますので、繰越剰余金の減少欄に金額が入っています。
(※2)(※1)の会計処理につき、税務上何もなかった形にするため、会計上の仕訳「利益剰余金(繰越剰余金)の減少」を取り消す申告調整を行います。
② 資本金等の額の明細書
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
資本金 | 10,000,000 | (※1)5,000,000 | 15,000,000 | |
資本準備金 | 10,000,000 | (※1)2,500,000 | 7,500,000 | |
利益積立金 | (※2)△2,500,000 | △2,500,000 | ||
差引合計額 | 20,000,000 | 20,000,000 |
(※1)緑の数値は会計処理を示していますので、申告調整ではありません。
既に、無償増資の会計処理として、「資本準備金の減少及び資本金の増加」欄に金額が入っています。
(※2)会計上の利益剰余金の資本組入仕訳を、税務上なにもなかったものとするため、会計上の仕訳を取り消す申告調整を行います。
結論、「資本金等の額の明細書の差引合計額」は、期首も期末も20,000千円で変動はありません。
なお、書き方は自由です。
上記例では、資本金等の額の明細書の「資本金」及び「資本準備金」の残高が、会計上のBS資本金と資本準備金と一致するように、別建てで「利益積立金」の行で調整をしています。
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