No77.【債務免除】同族会社の役員借入金を債務免除する場合の法人税・所得税・相続税の課税関係・仕訳/みなし贈与の規定に注意!
同族会社の場合、業績不振等を背景に、オーナー社長からの「役員借入金」が計上されているケースは多いです。
法人の「役員借入金」は、オーナー社長からみると「法人への貸付金」となります。
この点、個人が保有する「法人貸付金」は、相続税の課税対象となるため、相続対策として、債務免除(個人側は債権放棄)を行うケースがあります。
債務免除を行うと、法人貸付金の相続税評価額は「ゼロ」となります。
ただし、「債務免除」を行うことで、「みなし贈与」となり、「贈与税」が発生するケースがある点には注意が必要です。
今回は、「債務免除」を行う場合の、法人側及びオーナー個人側の「税務上の取扱い」につき解説します。
1.債務免除による当事者間の課税関係
「債権放棄」は、債権者から債務者への口頭での通知で効果が生じますが、実務上は、「文書」で通知するケースが多いです。「債務免除」した場合の、法人及び個人側の課税関係は、以下の通りです。
(1) 法人側
債務免除を受けた法人側は、「債務免除益」が計上され、法人税が課税されます(消費税は課税対象外)。
したがって、債務免除を行う際は、法人側の「繰越欠損金」の状況を考慮して実行する必要があります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
社長借入金 | ××× | 債務免除益(特別利益・不課税) | ××× |
(2) オーナー個人側の処理
相続税上は、債務免除をすることで、「法人貸付金」の相続税評価額はゼロとなります。
なお、債権放棄側は、「貸倒損失」として損金処理の有無の論点がありますが、「法人貸付金」の場合は、代表個人が貸付を事業として行っていない限り、個人側で所得税上の損金処理はできません(DESの場合は、売却処理となるため損金算入が可能)。
2.債務免除による「みなし贈与」に注意
オーナー社長以外の株主がいる場合、社長貸付金の「債務免除」により「みなし贈与」が発生するケースがあります。
(1) みなし贈与が生じるケース
オーナー貸付金の「債務免除」が行われると、法人側は「債務免除益」が計上され、「純資産額」増加を通じて、株主所有持分価値が増加します。
この点、1人オーナーの場合は、オーナー個人の債権放棄損と、法人側の株式価値増加部分が相殺され、実質価値の増減はありません。一方で、オーナー社長以外に株主がいる場合は、社長貸付金の「債務免除」により、純資産増加を通じて、オーナー社長⇒他の株主への株式価値の移転が生じます。
同族会社では、当該「所有株式価値の移転部分」は、債権放棄した株主から他の株主に対する贈与とみなされ、贈与税の課税対象になります(相法9条、相基通9-2(3))。
直接「金銭の贈与」はありませんが、間接的に「株式価値の実質増加」という経済的利益を取得する点に着目し、「贈与」とみなされます(贈与の額=債務免除後の株式価額-債務免除前の株式価額)。
同族会社・・の株式又は出資の価額が・・増加したときにおいては、・・増加した部分に相当する金額を、・・贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。・・
(3)対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者・・
(2) みなし贈与が生じないケース
会社が債務免除を受けた場合には、同額の債務免除益が計上されますが、繰越欠損金が多額で債務免除益を計上しても、依然債務超過が解消しない場合は、株価はゼロのままのため、「みなし贈与」の問題は起こりません。
また、例えば、法令に基づく会社更生計画の認可等、会社が資力を喪失した場合は、例外的に、「みなし贈与」とならない規定があります。
同族会社の取締役、業務を執行する社員その他の者が、その会社が資力を喪失した場合において9-2の(1)から(4)までに掲げる行為をしたときは、・・9-2にかかわらず、贈与によって取得したものとして取り扱わないものとする。なお、会社が資力を喪失した場合とは、法令に基づく会社更生、再生計画認可の決定、会社の整理等の法定手続による整理のほか、株主総会の決議、債権者集会の協議等により再建整備のために負債整理に入ったような場合をいうのであって、単に一時的に債務超過となっている場合は、これに該当しないのであるから留意する。
(3)みなし贈与を発生させないためには?
株主間のみなし贈与の論点を回避するためには、暦年贈与110万の範囲内での債務免除、あるいは、すべての株式を取得して、他に株主がいない状態にしてから債務免除する等が考えられます。
3.債務免除しなくても、相続税評価がゼロとなるケース
法人への貸付金については、その回収が不可能あるいは著しく困難と見込まれる場合は、相続税評価額はゼロとなります。
ただし、単に赤字や債務超過、現金が大幅に減少しているというだけでは要件を満たしません。
具体的には、以下の場合が挙げられています(財基通達205)
●手形交換所での取引停止処分を受けたとき
●会社更生法・民事再生法・破産法の規定による更生手続・再生手続・破産手続開始の決定があったとき
●会社法の規定による特別清算開始の命令があったとき
●業況不振等により、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき
4.参照URL
(No.4424 債務免除等を受けた場合)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4424.htm
(財基通 205 貸付金債権等の元本価額の範囲)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/08.htm#a-205
5.Youtube
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