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M&Aの手法として、事業譲渡、合併、株式譲渡、会社分割などがありますが、実務上は、「事業譲渡」が活用されるケースが多いかもしれません。
個人事業主が法人成りする場合も、多くの場合は「事業譲渡」に該当します。
今回は「事業譲渡」の会計処理や、株式譲渡、合併、会社分割との違いを中心に解説します。

1. 事業譲渡とは?株式譲渡・合併との違い

事業譲渡とは、事業に関連する資産・負債・権利義務等の一部又は全部を、他に譲渡することです。事業譲渡の法的形式は、「個別資産・負債の売買」の一種となります。
個人事業主が法人成りする場合も、「売買形式」の場合は「事業譲渡」に該当します。
事業譲渡と、他のM&Aの手法(株式譲渡・合併等)の違いは以下の通りとなります。

 

(1) 株式譲渡との違い

「株式譲渡」の場合、株主間の取引となり、譲渡対価が会社に入金されることはありません。一方、「事業譲渡」の場合は、当事者は事業者(会社等)となりますので、譲渡対価は直接事業者(会社等)に入金されます。

 

(2) 合併との違い

合併の場合、法的形式は「組織法上の行為」と位置付けられるため、当然にすべての権利義務の承継が行われます。一方、事業譲渡の場合は、「個別資産・負債の売買」となるため、個別の契約・個別承継となります。
この結果、法的手続が大きく異なってきます。合併は「債権者保護手続」が必要となりますが、事業譲渡の場合は、個別に同意を得るため、「債権者保護手続」はありません。

2. 事業譲渡側の会計処理

事業譲渡は、「個別資産・負債の売買」と位置付けられるため、法人税上は、時価での譲渡が原則となります(法法22条)。この結果、事業譲渡側の会計処理は、原則として「時価」で売却した処理となります。
ここでの「時価」は、「第三者間で取引された場合に通常付される価額」を指し、事業譲渡の場合は、第三者取引価額=売却額(現金等の対価)となります。
この結果、事業譲渡側は、譲渡対象となる資産・負債簿価と現金受入額の差額につき「事業譲渡益」が計上されます。

3. 事業受入側の会計処理

法人税上、「事業譲渡」は、時価での会計処理となるため、事業受入側は、資産負債につき、時価で受入処理を行います。

 

(1) のれんの発生

事業譲渡は、法的形式は「個別資産・負債の売買契約」となりますが、事業譲渡対価については、「事業全体」に対する評価額で決定されるケースが多いです。
例えば、当該事業の「超過収益力等」に対価が支払われる場合は、「個別資産・負債」の時価以上の額が支払われ、「のれん」(資産調整勘定)が発生します。一方、簿外負債等がある場合は、「負ののれん(差額負債調整勘定)」が発生するケースもあります。
ただし、のれんが発生するケースは、事業譲渡により「当該事業に係る主要な資産又は負債の概ね全部」が譲受法人に移転する場合に限定されています。
なお、のれん及び負ののれんは、税務上「5年」で月割償却(or益金算入)します。

 

(2) 棚卸資産・減価償却資産の取扱い

棚卸資産 原則として、時価(通常販売価額)での受入処理となります(※)。ただし、第三者間での事業譲渡契約の場合、両者合意の第三者価格で決定されますので、簿価で受け入れることも特段問題はないものとされています。
減価償却資産 原則として時価で受入処理を行いますが、実務上は、簿価での受入も許容されます。詳しくはこちらをご参照ください。
なお、減価償却資産は、中古資産の受入処理となり、税務上、中古資産の耐用年数の計算が必要になります。

(※)個人⇒法人の場合、通常販売価格×70%で販売したものとみなす規定があります
(所法40条第1項第2号、所基通40-3)。

 

(3) 手数料の取扱い

資産の取得価額は、本体価額だけでなく、付随費用等も含まれますので、事業譲渡の際に支払った手数料は、損金ではなく、「取得価額」として計上します。
通常、事業譲渡契約では、個々の財産の売買価額が明らかでないケースが多いため、手数料は、個々の財産の「時価で按分」して、それぞれの資産に配分します。

4. 消費税の取扱い

事業譲渡は、「個別資産・負債の売買取引」となりますので、譲渡する資産に応じて消費税の課税関係が決定されます。
例えば、建物や棚卸資産の譲渡は「課税取引」、のれんも消費税課税取引となります。一方、土地、売掛金の譲渡は「非課税取引」となるため、事業譲渡側は、課税売上割合に影響があります。金銭債権等の譲渡は、5%だけ非課税売上として認識します。

5. 登録免許税・不動産取得税

事業譲渡の対象に、不動産(土地・建物)が含まれる場合は、所有権移転登記が必要となり、登録免許税や不動産取得税が発生します。

6. 会計処理の具体例

● 事業譲渡を行う対価(現金)は100,000(対価の内訳は不明)。
● 事業譲渡対象の資産負債の簿価・時価は以下の通りとする。

 

勘定科目 簿価 時価 時価差額
売掛金 20,000 20,000
土地 30,000 50,000 +20,000
建物 10,000 10,000

 

(1) 譲渡側の会計処理

事業譲渡の法的形式は「売買契約」のため、事業譲渡対価(売却額)と譲渡資産の簿価の差額が「事業譲渡損益」となり、税務上損金・益金に算入します。

借方 貸方
現金 100,000 売掛金(非)
土地(非)
建物(課)
仮受消費税
事業譲渡益
20,000
30,000
10,000
5,000
35,000

● 仮受消費税の計算 (100,000-20,000-30,000)×10%=5,000

 

(2) 譲受側の会計処理

譲受側は、時価で資産を受け入れる仕訳を行います。事業譲渡対価(現金)と、譲受対象資産の時価の差額は「のれん」となります。

借方 貸方
売掛金(非)
土地(非)
建物(課)
仮払消費税
のれん(課)
20,000
50,000
10,000
5,000
15,000
現金 100,000

● 仮払消費税の計算は、譲渡側の「仮受消費税」と同じです。
● のれんは、貸借差額で計算します。

7. 個人事業主の場合は?

個人事業主の場合、相続や生前贈与により第三者に財産を渡すケースもあります。例えば、個人事業を引退する場合、亡くなられた場合などです。こういった場合は、「事業譲渡」ではありませんので、所得税ではなく、相続税、贈与税が課税されます。また、相続、贈与により財産を渡す場合は、対価性がないため、消費税は課税されません

8. 事業譲渡と会社分割の違い

事業を売却する方法として、「会社分割」という方法があります。事業譲渡は、金銭等を対価とする「売買契約」になりますが、会社分割の場合は、譲受企業の株式を対価とする「組織法上の行為」となるため、法的形式が大きく異なります
両者を比較すると、以下の通りとなります。

事業譲渡 会社分割
目的 売買(契約法) 組織の再編(組織法)
実行後の組織 変更なし 親子(分社型)or兄弟会社(分割型)
譲渡対価 原則金銭(対価必要) 原則株式発行(対価不要)
債権者保護 個別同意 債権者保護手続あり
債権債務・労働者移動 個別手続・同意必要 自動的に承継
許認可の移転 再取得必要 自動的に移転
消費税 対象資産により判定 課税されない
税務処理 時価取引(譲渡損益発生) ● 時価取引(譲渡損益発生)
● 適格要件満たす場合は譲渡損益繰延
不動産取得税 課税 一定の場合、課税されない

会社分割は、資金を要することなく、比較的手続が簡単な点で、グループ会社間で利用されるケースが多いです。一方、会社分割の場合、債権債務は当然に承継されますので、引き継ぎたくない債務も承継されてしまう点、に注意が必要です。

9. Youtube

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