No58.グループ法人内取引の取扱い
グループ法人税制は、「グループ法人内取引」につき強制適用されます。特徴をまとめると、以下の6つに集約されます。
すべてに共通するテーマは、グループ一体で課税するという趣旨ですね。
1.資産の譲渡取引にかかる譲渡損益の繰延
2.グループ内受取配当の益金不算入
3.グループ内寄附金の損金不算入及び受贈益の益金不算入
4.株式発行法人への譲渡につき、譲渡損益を計上しない
5.子法人解散による整理損等の損金不算入&繰越欠損金の引継
6.中小企業向けの特例措置の不適用
以下、それぞれについて解説していきます。
目次
1.資産の譲渡取引にかかる譲渡損益の繰延
グループ法人間での一定の資産の譲渡については、譲渡損益を繰り延べます。
(1)対象資産
- 固定資産
- 土地
- 有価証券
- 金銭債権及び繰延資産
(売買目的有価証券、譲渡直前の帳簿価額が1,000 万円未満の資産は除きます)
(2)仕訳例
親会社は、100%子会社Aに、土地を200 で売却(簿価100、時価200)
親会社 | 子会社A | |||
---|---|---|---|---|
会計 | 現金 200 | 土地 100 売却益 100 |
土地 200 | 現金 200 |
申告調整 | 売却益 100 減算 | なし |
子会社Aは、上記資産を100%子会社Bに350 で売却(簿価200、時価350)
親会社 | 子会社A | |||
---|---|---|---|---|
会計 | 仕訳なし | 現金 350 | 土地 200 売却益 150 |
|
申告調整 | 売却益 100 加算 | 売却益 150 減算 |
親会社が繰り延べた売却損益は、譲受会社A社がB社に売却した時点で、親会社で売却損益を認識します(※)。同様に、子会社Aが子会社Bに売却する際には、A社で売却損益を繰り延べ、B社がその後売却したときに、子会社Aで売却損益を認識します。
(※)売却先は、外部に限らず、今回の例のように「グループ会社への売却」でも実現します。
2.グループ内受取配当の益金不算入
グループ内での受取配当等は、全額益金不算入となります
3.グループ内寄附金の損金不算入及び受贈益の益金不算入
(1)一般的な寄付金の取扱い
法人税法上、寄付を行った法人は、損金算入限度額までしか損金で認められず、受領した法人は、受贈益全額が益金に算入されます。
(2)グループ内寄付金の取扱い
上記にかかわらず、グループ内寄付金については、行った法人は全額損金不算入となり、受領した法人は、全額が益金不算入となります。
(3)仕訳例
クレアビズ社の100%子会社Aは、100%子会社Bに寄付100を行った。
(各子会社の仕訳)
子会社A | 子会社B | |||
---|---|---|---|---|
会計 | 寄付金 100 | 現金 100 | 土地 100 | 受贈益 100 |
申告調整 | 寄付金全額加算 | 受贈益全額減算 |
(親会社の仕訳)
「寄付を行った法人」と、「寄付を受けた法人」それぞれの株主(上記例では、共にクレアビズ社)は、寄付金部分につき簿価修正を行います。これは、グループ法人間寄付に課税が生じないことを利用した、租税回避を防止するためです(意図的に「株式譲渡損」を発生させることを防止)。
上記例で、親会社であるクレアビズ社は、「株式簿価」を以下の通り修正します。
(株式簿価の修正は、申告調整で行います)
クレアビズ社(親会社) | ||
---|---|---|
申告調整 | 利益積立金 100 B社株式 100 |
A社株式 100 利益積立金 100 |
なお、株式簿価の修正は、直接の株主のみとなります。例えば孫会社が、親会社に寄附を行っても、孫会社の直接株主である「子会社」が、「孫会社株式」の簿価を修正するだけで、「親会社」が「子会社株式」の簿価を修正するわけではありません。
寄付金調整の「具体的な申告書の記載方法」は、下記URLで、別途まとめています。ぜひご参考にしてください。
グループ内寄付金がある場合の申告調整1~子会社間の寄付~
グループ内寄付金がある場合の申告調整2~親⇒子への寄付~
グループ内寄付金がある場合の申告調整3~子⇒親への寄付~
(4)留意事項
寄付金損金及び益金不算入の制度は、「法人による完全支配関係のある場合限定」で、一の者が個人(及び特殊の関係のある個人)の場合には適用されません。つまり、個人で100%支配しているグループ内の寄付金は、寄付側は(損金算入限度額を除き)損金不算入、受けた法人側では益金算入となります。
なぜなら、この制度を個人に認めると、贈与税や相続税が簡単に節税できることになるからですね。例えば、100%父親が所有する会社が、法人の資産をすべて息子の会社に寄附すれば、息子の会社は、税金を支払わずに財産をもらうことになりますので。
4.株式発行法人への譲渡(=自己株譲渡)につき、譲渡損益を計上しない
グループ内会社から、発行元であるグループ内の株式発行法人に株式を譲渡する場合(=自己株の譲渡)は、譲渡損益を計上しません。
会計上、譲渡損益を計上している場合は、申告調整で加減算します(譲渡損益相当分は、資本金等の額を調整します)。
一方、自己株取得ですので、「みなし配当」の規定は適用されますが、完全支配関係にある法人間のみなし配当は、全額益金不算入となります。
5.子法人解散による整理損等の損金不算入&繰越欠損金の引継
子会社が解散し、残余財産が確定した場合、通常、親会社で「子会社整理損」が計上されますが、この整理損は税務上損金不算入となります。その代わり、子会社が保有していた未処理欠損金額は、親会社に引き継がれます。
6.中小企業向けの特例措置の不適用
資本金の額等が1 億円以下の法人については、税務上さまざまな恩典がありますが、このうち、大会社の子会社等(資本金の額等が5 億円以上の法人等の100%子会社)には、次の恩典が適用されなくなりました。
- 軽減税率
- 貸倒引当金の法定繰入率
- 交際費等の損金不算入制度の定額控除
- 欠損金の繰戻しによる還付制度
- 特定同族会社の特別税率の適用
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