No56.会社分割とは?
目次
1.どんなもの?
簡単にいうと、会社が、ある事業を分離して他の会社に移転させることです。事業譲渡に似ています。
複数の事業を行っている場合に、1事業を別会社に移したい場合や、事業承継の場面で、将来の株価を抑えたい時などによく利用されます。
事業譲渡は現金等が対価となりますが、会社分割の場合は、株式を対価することができる点、異なります。
新設分割と、吸収分割の2種類ありますが、新会社を設立して分離するか?(新設分割)既存会社に分離するか?(吸収分割)だけの違いです。
ここでは、新設分割を前提に、パターンを二つに分けて説明します。
(1)分社型分割
A事業とB事業を行っているクレア社は、B事業を分離したいと考えています。
そこで、ビズ社を設立し、B事業をビズ社に分割。
その対価として、ビズ社は、自社株式を、分離元の会社であるクレア社に発行します。
(2)分割型分割
A事業とB事業を行っているクレア社は、B事業を分離したいと考えています。
そこで、ビズ社を設立し、B事業をビズ社に分割。
その対価として、ビズ社は、自社株式を、分離元の会社の株主である甲さんに発行します。
2.会社分割の特徴
- 事業を分離する際、通常は現金等のやりとりが必要であるが、会社分割の場合は、自社の株式を代価にすることができるため、新たな買収資金調達が不要。
- 事業を分離した後も、分離後の会社と、親子関係あるいはオーナーを中心とした兄弟関係を創設することができる。
3.どっちを選ぶ?
分社型分割は、分割会社を「分割元の子会社」にしておきたい場合に利用します。
一方、割型分割は、分割会社を、オーナーからみた「兄弟会社」にしたい場合に利用します。
例えば、分割後の事業を、分割元会社の子会社として採算を把握したい場合には、「分社型分割」を利用します。
一方、後継者に会社を対等に切り分けて、事業承継させたい場合は、オーナーを中心とした複数の会社に分割する「分割型分割」を利用します。
4.適格会社分割
適格分割(分社型・分割型)に該当する場合は、移転資産と負債を帳簿価額で移行でき、譲渡損益の繰延が行われます。
また、適格分割型分割の場合は、一定金額の利益積立金が、分割承継会社に引き継がれます。
5.適格会社分割の要件
持分割合 | 株式交付 | 持分 継続 |
資産負債引継 | 従業員引継 | 事業継続 | 事業関連性 | 規模or 役員 | 株式継続保有 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
企業グループ内分割 | 100% | ◯ | 100% | × | × | × | × | × | × |
50%超 100%未満 |
◯ | 50%超 100%未満 |
◯ | ◯ | ◯ | × | × | × | |
共同事業のための分割 | 50% 以下 |
◯ | − | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
(1)企業グループ内分割とは?
- 親会社と子会社が、同一の者に50%超を所有されている企業グループ内の会社分割
(同一の者=親族等同族関係者含む) - 親会社が、子会社の50%超を直接(又は間接)所有している企業グループ内の会社分割
(2)共同事業のための会社分割とは?
資本関係のない複数の会社が、相互に関連性ある事業を集約することで、競争力の強化を図ることを目的として行われる会社分割。
(3)各種要件の説明
要件
|
内容
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---|---|
株式交付要件 |
株式以外の資産が交付されない分割であること(金銭交付は×) |
持分継続要件 | 分割前後に、持分関係が継続することが見込まれること |
資産負債引継要件 | 「分割事業」に係る主要な資産及び負債が引き継がれる |
従業員引継要件 | 「分割事業に従事する従業員」の概ね8割以上が継続従事見込であること |
事業継続要件 | 「分割事業」の継続が見込まれること |
事業関連性要件 | 「分割法人の分割事業」と「分割承継法人の従前事業」の相互関連性 |
規模比率or |
・分割事業にかかる、分割法人と分割承継法人の事業規模(売上額、従業者数等)が概ね5倍を超えないor ・分割法人及び分割承継法人の特定役員(常務取締役以上)が、分割後に分割承継法人の特定役員となることが見込まれている (各社から一人ずつ以上) |
株式継続保有要件 |
株式の継続保有が見込まれること
(分割法人の株主が50人以上の場合は不要) |
6.適格会社分割の仕訳(税務仕訳)
(1)分社型分割
会社
|
借方
|
貸方
|
摘要
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---|---|---|---|
分割会社 |
負債(簿価) |
資産(簿価) |
|
分割承継会社 |
資産(簿価) |
負債(簿価) 資本金等(差額) |
|
分割会社株主 | なし | 株主仕訳なし |
(2)分割型分割
分割型分割の場合は、一旦、分割会社が受け入れた分割承継会社株式を、分割会社の株主に現物配当するイメージです。分割会社の純資産額に変動があります。
会社
|
借方
|
貸方
|
摘要
|
---|---|---|---|
分割会社 |
負債(簿価) |
資産(簿価) |
|
分割承継会社 |
資産(簿価) |
負債(簿価) 資本金等(※1) 利益積立金(差額) |
|
分割会社株主 | 承継会社株式 | 分割会社株式 (※2) | 株の入替仕訳を行う |
(※1)「資本金等減少額」(注)をまず決め、差額が利益積立金となります。
(注)分割前資本金等 × (分割純資産簿価÷分割前(分割法人)簿価純資産)
⇒つまり、「分割前簿価純資産」に対する「分割純資産」の割合分だけ「資本金」を減らす。
差額が利益積立金となります。
(※2)分割純資産対応簿価を算定します
分割前分割法人株式簿価 × (分割純資産簿価÷分割前(分割法人)簿価純資産)
⇒つまり、「分割前簿価純資産」に対する「分割純資産」の割合分だけ「株式簿価」を減らす。
7.非適格分割の仕訳(税務仕訳)
(1)分社型分割
会社
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借方
|
貸方
|
摘要
|
---|---|---|---|
分割会社 |
負債(簿価) |
資産(簿価) 譲渡益(時価差額) |
|
分割承継会社 |
資産(時価) |
負債(時価) 資本金等(差額) |
|
分割会社株主 | なし | 株主仕訳なし |
(2)分割型分割
会社
|
借方
|
貸方
|
摘要
|
---|---|---|---|
分割会社 |
負債(簿価) |
資産(簿価) 譲渡益(時価差額) |
|
分割承継会社 |
資産(時価) |
負債(時価) 資本金等(差額) |
|
分割会社株主 | 承継会社株式 | 分割会社株式 みなし配当 譲渡損益 |
|
(※1) 適格分割型分割と同様
8.税務処理まとめ
(1)分社型分割
適格 | 非適格 | ||
---|---|---|---|
移転資産等の価額 | 簿価 | 時価 | |
譲渡損益 | なし | 発生 | |
利益積立金の引継 | なし | なし | |
分割会社 | 課税なし | 課税あり(※1) | |
分割承継会社 | 課税なし | ||
分割会社株主 | 譲渡損益 | なし | |
みなし配当 | なし | ||
帳簿価額修正 | なし | ||
分割承継会社株主 | 課税なし |
(2)分割型分割
適格 | 非適格 | ||
---|---|---|---|
移転資産等の価額 | 簿価 | 時価 | |
譲渡損益 | なし | 発生 | |
利益積立金の引継 | あり | なし | |
分割会社 | 課税なし | 課税あり(※1) | |
分割承継会社 | 課税なし | ||
分割会社株主 | 譲渡損益 | なし | あり(※1) |
みなし配当 | なし | あり(※2) | |
帳簿価額修正 | あり | あり | |
分割承継会社株主 | 課税なし |
(※1)一定の場合、課税が繰り延べられます(グループ法人税制の適用がある場合)
(※2)分割法人の利益積立金相当額
9.会社分割の手続の流れ(吸収分割を例にします)
① | 会社分割契約の締結 | 分割会社・分割承継会社間で契約を締結。 |
---|---|---|
② | 事前開示手続 | 双方の会社で契約内容等を備置し、各株主等に事前開示。 |
③ | 株主総会の承認 | 各社で株主総会の特別決議必要。なお、一定の要件を満たす場合には、株主総会の省略が認められる。 |
④ | 反対株主等からの株式等の買取 | 各会社は、各株主宛に会社分割の旨などを通知し、反対株主等から株式買取請求に応じる。 |
⑤ | 債権者保護手続 | 原則として、双方の会社で債権者保護手続が必要(ただし、分割会社では不要のケースあり)。 |
⑥ | 効力発生(効力発生日) | 効力発生日は、会社分割契約で定められる。 |
⑦ | 事後開示手続 | 双方の会社で、契約内容等を備置し、各株主等に事後開示。 |
⑧ | 変更登記 | 分割会社・承継会社双方にて変更登記。 |
(注)株主総会決議を省略できる場合があります(簡易会社分割・略式会社分割)。
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