抱合せ株式の会計処理/税務処理
1. 抱合せ株式って?
(1) 抱合せ株式って何?
合併法人が保有する「被合併法人の株式」のことをいいます(※)。
一般的に、合併( or分割型分割)の場合には、「合併法人」から「被合併法人」の株主に、対価が交付されます。
この点、合併法人が「被合併法人株式」(=抱合せ株式)を保有している場合は、その部分は合併法人=被合併法人の株主となります。
なので・・抱合せ株式に関しては、「合併会社」は、「被合併法人の株主」(=自分)に対しても、対価を割り当てることになります。
しかし、例外的に、この「抱合せ株式」には「対価を交付」することが認められていません(会749①三)。
(大量の自己株式の取得になるため)
そして、最終的に「抱合せ株式」は、合併等に伴い消滅することになります。
(※)被合併法人が保有する「他の被合併法人の株式」も含みます。(法24②)。
(2) 「会計上」の取扱い
① 取扱い
合併により「抱合せ株式」は消滅します。
- 合併直前の「簿価」で資産負債を引継ぎます。
- 「抱合せ株式簿価」を減少させます。
- 差額を「抱合せ株式消滅損益」として特別損益に計上します。(※)。
(「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」206項)
(※)被合併会社の「株主資本のうちの親会社持分相当額」と「抱合せ株式帳簿価額」との差額
② 会計仕訳
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
資産(簿価) 抱合せ株式消滅損益 |
×× ×× |
負債(簿価) 子会社株式 (抱合せ株式・子会社株式簿価) |
×× ×× |
(3) 「税務上」の取り扱い
① 取扱い
合併により、「抱合せ株式」は消滅します。
「適格合併」を前提とした場合、税務上の取扱いは以下の通りとなります。
- 合併直前の「簿価)(税務簿価)」で資産負債を引継ぎます。
- 「資本金等の額」と「利益積立金」をそのまま引継ぎます。
(法62条の2①④、法令9①二、8①五)(※) - 「抱合せ株式」を減少させ、同額「資本金等の額」を減算します(法令8①二十一イ)。
(※)マイナスの利益積立金も引継可(繰越欠損金の引継)
なお、会計上の「抱合せ株式消滅損益」は、税務上は、損金益金不算入となります(減算・加算留保)
② 税務仕訳(適格合併 合併会社)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
資産(税務簿価) 資本金等(子会社株式税務簿価) |
×× ×× |
負債(税務簿価) 資本金等(簿価) 利益積立金(簿価) 子会社株式(子会社株式税務簿価) |
×× ×× ×× ×× |
③ みなし配当・譲渡損益の取扱い(法24①一)。
- 非適格合併の場合は、みなし配当が生じます。(「適格」の場合は生じません)
- 「譲渡損益」は、適格・非適格どちらも生じません(H22年度税制改正)
2. 抱合せ株式(適格合併 親子合併)の例題
- クレア社は、100%子会社ビズ社を「適格合併」する。
- 合併による「増加資本金」はなし
- 合併に際して、抱合せ株式(クレア社保有のビズ社株式)には株式を割り当てない
- クレア社の「ビズ社」株式簿価は300(税務簿価も一致)
(ビズ社の合併直前BS 簿価=税務簿価)
(1) 合併会社(クレア社)の仕訳
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
会計 | 資産 | 1,000 | 負債 子会社株式 抱合せ株式消滅益(※1) |
200 300 500 |
税務 |
|
|
負債 資本金等の額(※2) 利益積立金(※2) 子会社株式 |
200 500 300 300 |
申告調整 |
抱合せ株式消滅益 資本金等の額 |
500 300 |
資本金等の額 利益積立金 子会社株式 |
500 300 300 |
(※1)「会計上」は、受入資産負債と、子会社株式の差額を「抱合せ株式消滅損益」で計上します。
(※2)「税務上」は、資産負債を簿価で引き継ぐとともに、被合併会社の「資本金等の額」「利益積立金」を引き継ぎます。
(※3)「税務上」は、抱合せ株式(子会社株式)と同額の「資本金等の額」を減少させます(法令8①二十一イ)。
(2) 別表の記載
① 別表4の記載
(所得の金額の計算に関する明細書)
区分 | 総額 | 処分 | ||
---|---|---|---|---|
留保 | 社外流出 | |||
当期利益 | ||||
加算 | ・・・ | ・・・ | ・・・ | |
減算 | 抱合せ株式消滅益(※1) | 500 | 500 |
(※1)会計上の「抱合せ株式消滅益」を減算(留保)
② 別表5の記載
(利益積立金の計算に関する明細書)
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
利益準備金 | ||||
・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |
抱き合せ株式消滅益 | (※2)500 | (※3)300 | △200 | |
繰越損益金(※4) | 500 | 500 |
(※2)別表4(※1)に対応
(※3)別表5で直接入力、利益積立金の増加
(※4)これは、申告調整ではなく、元々計上済の「会計上の繰越利益」を表示しています。(申告調整と区別するため斜体で表示)。
(資本金等の額の明細書)
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
資本金 | ||||
資本準備金 | ||||
資本金等の額(※5) | 300 | 500 | 200 |
(※5)税務上の資本金等の増減を示しています。
3. 子会社同士の合併の場合
子会社同士の合併の場合、会計上、「抱合せ株式消滅損益」は生じません。
(例外的に「合併子会社」が「被合併子会社の株式」を保有している場合は、生じます)
また、簿価=税務簿価を前提にすると、「会計」と「税務」上の処理で相違は生じませんので、申告調整はありません。
(例題)
上記2の「適格合併」の例題で、クレア社とビズ社がともに、他の会社の100%子会社の場合
合併会社(クレア社)の処理は以下となります。
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
会計 | 資産 | 1,000 | 負債 資本金等の額 利益積立金 |
200 500 300 |
税務 | 資産 | 1,000 | 負債 資本金等の額 利益積立金 |
200 500 300 |
申告調整 | なし |
なお、この場合、「親会社」では、クレア社とビズ社の「株式付け替え仕訳」が行われます。
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