適格現物分配2~孫会社を子会社化する際の会計処理/税務処理~
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前回に引き続き、現物分配を活用するケースとして、「孫会社株式を子会社にする際の現物分配」を例に、会計処理・税務処理を検討します。
1. 例題
- 「クレア社」の100%子会社「ビズ社」は、親会社に現物分配を行います。
- この現物分配は、金銭ではなく、ビズ社の100%子会社である「A社株式」で行います。
- ビズ社保有の「A社株式」簿価は100とします。
- 現物分配の原資は、「その他資本剰余金60・その他利益剰余金40」とします。
- 当該現物分配は「適格要件」を満たします。
(イメージ図)
(ビズ社の前事業年度末 BS)
2. 子会社・現物分配法人の処理(ビズ社)
(1) 仕訳(会計・税務)
「適格現物分配」に該当する場合、配当による資産の移転は、「帳簿価額」よって行われ、課税関係が生じません。
また、現物配当に関する「源泉徴収」も不要となります。
今回の現物分配は「資本剰余金の額の減少を伴う現物分配」であるため、みなし配当事由に該当します(法法24条1項3号)。
税務上は、「出資の払戻部分」と「利益の配当部分」を算定する必要があります。(法令8条1項16号、9条1項11号)。
借方 | 貸方 | 摘要 | |||
---|---|---|---|---|---|
会計 | 資本金等の額 利益積立金 |
60 40 |
A社株式 | 100 | |
税務 | 資本金等の額(※1) 利益積立金(※2) |
36 64 |
A社株式 | 100 | 簿価譲渡のため、譲渡損益は発生しない |
(※1)資本金等の額から減算する額
払戻直前資本金等の額600 × 資本の払戻により減少した資本剰余金の額60 / 前事業年度の簿価純資産額1,000
資本金等の額から払い戻す額は・・
600 × 60 / 1,000 = 36
今回の事例も、前回同様「適格現物分配」ではありますが、「解散による残余財産の分配」ではない点が異なります。
この場合、資本金等の額から減算する額を算定する際に用いる分子の金額は
「現物分配資産の交付直前の帳簿価額」100ではなく、「資本の払戻により減少した資本剰余金の額」60となる点、異なります。
(※2)利益積立金から減算する額(みなし配当部分)
貸借差額 100 - 36 = 64
(2) 申告調整仕訳
「会計処理」と「税務処理」が異なるため、税務申告上の調整が必要となります。
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
申告調整 | 利益積立金 | 24 | 資本金等の額 | 24 |
(3) 別表の記載
① 別表4の記載
「会計」と「税務」の相違はありませんので、別表4の税務申告上の調整はありません。
② 別表5の記載
(利益積立金の計算に関する明細書)
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
利益準備金 | ||||
・・・ | ||||
利益積立金(※1) | 24 | △24 | ||
繰越利益金(※2) | 40 | △40 |
(※1)「資本金等の額」の額を超えた部分(申告調整仕訳 借方)
(※2)これは、申告調整ではなく、元々計上済の「会計上の繰越利益」を表示しています。(申告調整と区別するため斜体で表示)。
(資本金等の額の明細書)
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
資本金 | 600 | 60 | 540 | |
・・・ | ||||
資本金等の額(※3) | 24 | 24 |
(※3)税務上の「資本金等の額」に合わせます(申告調整仕訳 貸方)。
3. 親会社・被現物分配法人の処理(クレア社)
(1) 仕訳
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
会計 | A社株式 | 100 | ビズ社株式(※1) | 100 |
税務 | A社株式 | 100 | 受取配当金(※2) 資本金等の額(※3) |
36 64 |
(※1)会計上は、現物分配であっても「収益計上」しないものとされています。
孫会社株式(間接投資)から子会社株式(直接投資)に変わるだけなので、株式を交換する会計処理を行い、「交換損益」は認識しません。
(詳細は省略しますが、「実質的に引き換えられたとみなして算定された金額」で「孫会社株式」を計上します。ここでは、簿価=実質引換価額としています)。
(「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」295項)。
(※2)受取配当金(みなし配当)
現物分配法人(ビズ社)で算定した「利益積立金」部分が「受取配当金」となります。
(※3)資本金等の額
会計上は、子会社株式(ビズ社)が減少し、「譲渡損益」は認識されません。
しかし、税務上は、グループ法人税制適用により、子会社株式は帳簿価額による譲渡があったものとみなされるため、譲渡損益は計上されません。
「実質的な譲渡損益相当額」は、ビズ社の資本金等の額から加減算します。(法61の2⑯、法令8①19,20)
(2) 申告調整仕訳
「会計処理」と「税務処理」が異なるため、税務申告上の調整が必要となります。
会計上は、「ビズ社株式」が減少しているのに対し、税務上は、「みなし配当」と「資本金の増減」の取扱いとなるため、申告調整を行います。
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
申告調整 | ビズ社株式 | 100 | 受取配当金 資本金等の額 |
36 64 |
(3) 別表の記載
① 別表4の記載
(所得の金額の計算に関する明細書)
区分 | 総額 | 処分 | ||
---|---|---|---|---|
留保 | 社外流出 | |||
当期利益 | ||||
加算 | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |
受取配当金計上漏れ(※1) | 36 | 36 | ||
減算 | 適格現物分配に係る益金不算入額(※2) | 36 | 36 |
(※1)みなし配当部分を加算(留保) (申告調整仕訳 貸方)
(※2)(※1)の結果、認識された受取配当金は、「適格現物分配に係る益金不算入額」に該当するため、減算(社外流出)(法法62条の5第4項)。
② 別表5の記載
(利益積立金の計算に関する明細書)
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
利益準備金 | ||||
・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |
みなし配当(※3) | 36 | 36 |
(※3)別表4の(※1)に対応。
(資本金等の額の明細書)
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
資本金 | ||||
・・・ | ||||
資本金等の額(※4) | 64 | 64 |
(※4)税務上の「資本金等の額」に合わせます(申告調整仕訳 貸方)。
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