減資の会計処理・税務処理/申告書の記載2 有償減資
前回の「無償減資」に引き続き、今回は「有償減資」の会計処理・税務処理/申告書の記載方法をまとめます。
有償減資・無償減資どちらも、「資本取引」と位置付けられます(会計処理・税務処理共通)。
ただし、有償減資の場合は、「みなし配当」が生じ、申告調整が必要な点が「無償減資」と大きく異なります。
有償減資の場合、税務上は、「資本金等の額」の減少額が決められていて、それを超える部分は「みなし配当」と取り扱われます。
(自己株式の取得も、同じ論点となります)。
1. 例題
簿価純資産額100,000(うち、資本金30,000、利益積立金70,000)の会社が、有償減資を行い、株主に5,000の金銭払戻しを行い、資本金を取り崩した。
2. 会計処理
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
資本金 | 5,000 | 現金 預り金 |
4,285 715 |
会計上は、「資本金」を減少させる処理となります。
なお、貸方の「預り金」は、税務上、配当とみなされる部分(みなし配当)に対応する源泉所得税です。
この金額については、「3.税務処理」のところで記載します。
3. 税務処理
(1) 仕訳
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
資本金等の額 利益積立金 |
1,500 3,500 |
現金 預り金 |
4,285 715 |
貸方は同じですが、借方が異なります。
税法上、有償減資として支払った金銭は「当初払い込んだ資本金等部分の払戻し」と「利益の分配部分」と2種類で構成されていると考えます。
前者は「資本金等の額の減少」、後者は「利益積立金の減少」と取り扱います。
この利益積立金の減少部分は、「みなし配当」と呼ばれます。
金額は、以下のように算定されます。
(2) みなし配当額(利益積立金の減少部分)の算定方法
株主への交付金銭等のうち、まず①資本金等の額の減少分を求め、②差引で利益積立金の減少分(みなし配当)を算定します。
(法人税法施行令8条1項19)
みなし配当額 = 株主等への交付金銭等 - 左記のうち「資本金等の額」対応部分(※)
(※)「資本金等の額」対応部分の求め方
上記式内の、「資本金等の額」は、法人税別表5(1)Ⅱの金額です。
(3) 事例へのあてはめ
5,000(交付金銭) - 5,000 × (30,000/100,000) = 3,500(みなし配当額)
上記式の意味は・・以下となります。
- 株主等への交付金銭(5,000)のうち、簿価純資産額100,000にしめる(減資前)資本金等の額(30,000)の割合分(30%)
⇒「減少資本金等の額」1,500 - 交付金銭5,000のうち、「減少資本金等の額」1,500を超えた金額
⇒「みなし配当額」(留保利益の払戻)3,500
(4) 源泉徴収税額
みなし配当は、「配当所得」となりますので、支払法人側で「源泉徴収」義務が生じます。
3,500(みなし配当額) × 20.42 % (源泉所得税率) = 715
4. 申告調整(税務修正仕訳)
会計処理と税務処理が異なるため、「申告調整」が必要となります。
税務上は「資本金等の額」と「利益積立金」の減少処理となりますので、会計と税務を一致させるため、別表5で申告調整(振替調整)を行います。
(税務調整仕訳)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
資本金等の額 利益積立金 |
1,500 3,500 |
資本金(等の額) | 5,000 |
税務上の仕訳に合わせるための振替仕訳になります。
(会計上の「利益」と税務上の「所得」に差異はありません)
5. 別表の記載
(1) 別表4の記載
会計上の「利益」と税務上の「所得」に差異はありませんが、所得に影響させないように、別表4での調整が必要となります。
別表5を見てからの方が、イメージはしやすいかもしれません。
区分 | 総額 | 処分 | ||
---|---|---|---|---|
留保 | 社外流出 | |||
当期利益 | ・・・ | |||
加算 | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |
みなし配当(※2) | 3,500 | 3,500 | ||
減算 | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |
みなし配当(※1) | 3,500 | 3,500 |
(※1)別表5と対応して、利益積立金の減少部分を記載します(留保)。
(※2)まず、別表5との関係で(※1)を記載しますが、このままだと所得が減少してしまうので、最終所得に影響がないように、(※1)と同額の加算を行います。この処理により、所得への影響はゼロとなります。また、当該加算は、既に配当として流出済のため、「社外流出」となります。
(2) 別表5の記載
① 利益積立金の計算に関する明細書
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
利益準備金 | ||||
・・・ | ||||
みなし配当 | 3,500 | △3,500 |
税務上、「資本金等の額」の額を超えた部分は、利益積立金のマイナスとなります。
② 資本金等の額の明細書
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
資本金 | 30,000 | 5,000 | 25,000 | |
・・・ | ||||
みなし配当 | 1,500 | 5,000 | 3,500 |
緑の数値は会計処理を示していますので、申告調整ではありません。
既に、減資の会計処理として、「資本金」は△5,000されているはずです。
この会計処理を前提に、いったん会計処理(△5,000)を取り消したうえ、税務上の資本金等の額の減少額1,500に修正する申告調整を行います。
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