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1.法人成りって何?


(1)法人成りって何?

法人成りとは、個人事業主が、個人事業を廃止して法人を設立することをいいます。


(2)法人と個人事業主との比較

法人と個人を比較すると、以下の通りとなります。メリットがある方に色をつけました。

法人
個人
設立・解散・運用コスト 設立・解散費用大・税理士費用 費用かからない
決算作業 少し難しい 難しくない
減価償却 任意計上可 強制償却
繰越欠損金 期間9年 期間3年
退職金 退職金支給が可能 退職金支給不可
社会保険 社会保険強制加入 5名未満の場合は任意加入(事業主は加入不可)
交際費 一部経費不可 全額経費可
給料 本人・親族等への給与可
(給与所得控除あり)
給与計上不可
(専業事業者給与のみ)
決算期 決算期自由 12月末決算のみ
税率 法人税等はおおむね35%程度 累進所得課税(最大45%)
均等割 赤字でも均等割発生 均等割なし
信用度 高い 低い


2.法人成りの方法

個人と法人は、「人格」が全く別物となります。
つまり、法人成りする場合は、個人事業主時代に所有していた棚卸資産や事業用固定資産等は、「法人に引き継ぐ」という作業が必要となります。

引継ぎの方法としては、①現物出資②譲渡③贈与④賃貸借の4つがあります。

それぞれのメリット等をまとめると、以下の通りとなります。

現物出資
譲渡(売却)
贈与
賃貸(※3)
内容 新会社の資本金の払込 新会社に譲渡 新会社に贈与 新会社に有償で貸す
引継価額
時価
時価
時価
メリット 資金不要 手続簡単 資金不要
  • 資金不要
  • 名義変更不要
  • 賃料経費計上可
留意点
  • 税金発生(※1)
  • 一定の場合、検査役検査必要(※2)
  • 時価受入のため、資本金額を調整できない
  • 税金発生
  • 資金必要
  • 低廉譲渡、高額譲渡の場合は、売却益以外の税金発生
  • みなし譲渡所得課税あり
    (個人)
  • 受贈益課税
    (法人)
  • 確定申告が必要(個人)
  • 将来相続により、資産が分散する可能性

(※)1 税務上、現物出資は「譲渡」と扱われます。
(※)2 出資財産500万超の場合
(※)3 その他、個人から法人に無償で貸す「使用貸借」という制度もあります。
使用貸借では、法人側で資金不要、不動産名義変更も不要、個人側での確定申告も不要となります。

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3.譲渡(売却)の留意事項

代表的な法人成りの方法は「譲渡」となります。

この「譲渡」の際、税金が発生する(所得税、消費税)可能性がある点に留意しなければいけません。


(1)譲渡価額

譲渡価額をどうするか?という論点があります。税務上は、「棚卸資産」と「棚卸資産以外」で、扱いが異なります。

①棚卸資産以外

「時価」で譲渡したものとされ、個人所得税の対象となります。
また、時価よりも高い額or低い額で譲渡した場合、個人側だけでなく、法人側にも税金がかかるケースがあります。
まとめると以下の通りとなります。

詳しくは、「法人が財産を低廉譲渡した場合」「法人が財産を高額譲渡した場合」をご参照ください。

個人側
法人側
低廉譲渡
(譲渡価額≦時価)
みなし譲渡所得課税
(時価の1/2未満の場合)(※)
受贈益課税
高額譲渡
(譲渡価額≧時価)
譲渡、一時所得 寄付金課税

(※)法人成りの場合、設立法人のほとんどが「同族会社」になるため、
時価の2分の1以上での譲渡でも、譲渡が「同族会社等の行為又は計算の否認」に該当する場合には、時価で課税されます(みなし譲渡所得課税)

 

②棚卸資産

棚卸資産の「譲渡価額」は、以下となります。

原則 通常販売売価
例外 通常販売売価の70%相当額以上で譲渡した場合には、その価額

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③負債

負債を譲渡する場合の引継価額は、「時価」となりますが、実務的には簿価=時価がほとんどなので、引継価額が問題となることはありません。

(まとめ)

譲渡資産
引継価額
所得の種類
税務上の留意事項
棚卸資産 通常販売売価
ただし、通常販売売価の70%以上ならOK
事業所得
  • 譲渡価額が時価と異なる場合、法人側・個人側で課税される場合あり。
  • 不良在庫引継不可。引継後に回収不能になった場合、個人への給与所得課税の可能性あり。
金銭債権債務 時価
(実務上は時価=簿価)
事業所得
  • 実務上は、個人名義のまま引き継がないケースが多い
  • 引き継ぐ場合は、取引先への名義変更通知必要
  • 不良債権の引継ぎ不可。棚卸資産同様。
土地、建物、借地権 時価 譲渡所得
(分離)
  • 譲渡損益発生
  • 譲渡価額が時価と異なる場合、法人側・個人側で課税される場合あり。
その他減価償却資産 時価
(実務上は簿価=時価)
譲渡所得
(総合)
  • 通常、譲渡損益は発生しない
借入金 時価
(実務上は時価=簿価)
  • 金融機関等の承認が必要
  • 個人と法人を混同しないように注意しましょう。
    個人時代の売掛金が法人口座に振り込まれた場合は、「預り金」として処理し、個人に返還します(売上計上はできません)。
  • 土地・建物は登記等の手間があることから、そのまま個人名義で利用し、賃貸(法人に借地権を設定)するケースが多いです。

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(2)消費税に注意

個人事業主が「消費税納税義務者」の場合、新会社への「譲渡」は「資産の譲渡」に該当し、消費税がかかります。
法人成りの場面では、個人事業主の最終年度で「消費税の課税額が多くなる」場合がありますので、特に資金繰りには注意しましょう。


(3)借入金を新会社に引き継がせる方法

①3種類の方法

負債は、新法人に引き継がずに個人事業主として弁済する方が楽なので、引き継がないケースが多いです。
ただし、「借入金」に関しては、法人に引き継ぐことで、「法人側で利息を損金にすることができる」ので、引き継ぐケースもあります。

引き継ぐ方法は以下の3つ、それぞれの特徴は以下の通りとなります。

重畳的債務引受 免責的債務引受 法人へ新規融資
内容 会社が個人とともに債務を引受 会社が単独で債務を引受。個人は連帯保証人になる。 会社に新たに貸出を行い、個人貸出金を回収。担保等も新しく差入。
メリット 個人事業主の立場が残るので、個人保証等がそのまま活かせる 比較的スムーズ 一番すっきりする
デメリット 手続きが煩雑
  • 金融機関、担保権社等の承認必要
  • 設立会社で株主総会等の承認必要
    (利益相反取引)
  • 法人成りの場合のみ選択可(※)

(※)契約上、「本資金を以って個人債務を完済すること」など条件を付けます。

(医療法人への法人成りの場合の借入金)
・設備や機械取得のための「借入金」は引き継ぐくことができますが、「運転資金や消耗品等に係る借入金」は引き継ぐことができません。
・法人設立認可申請時に、「負債残高証明及び債務引継承認願」を提出します。

上記は法令に基づくものではなく、各都道府県ごとに「引き継げる負債の範囲」が定められているようです。

②留意事項

  • 法人成り前後で不動産等を購入する場合は、最初から法人名義の借入をすることを前提に(個人資産の担保等で)、銀行と交渉しておくのが効率的です。
  • 引き継がない場合は、個人が引き続き「返済」することになります。
    ただし、会社のお金を個人の返済に充てることはできないため、個人側で法人成り後の資金返済に苦労することがあります。
    資金繰りも併せて検討しておく必要があります。
  • 法人成り後も、実態は従前と変わらないので、通常は、銀行から担保や保証人追加を新たに要求されることはありません。

 


4.賃貸の場合の留意事項(固定資産)


(1)個人・法人の会計処理

固定資産を譲渡すると、登記変更等の手間があるため、法人成りの場合、実務的には固定資産を新会社に引き継がず、個人から法人に賃貸するケースが多いです。
その場合、法人から個人へ「家賃の支払」が必要となり、個人側は「賃貸収入」が計上され、法人側は「支払家賃」が計上されます。

収入
費用
個人側 賃料収入(不動産の場合) 支払家賃(家主への)or減価償却
法人側 支払家賃(個人への)

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(2)留意事項

  • 個人側では「賃料収入」が計上されますので、個人事業主廃業後も、「所得税の確定申告」が必要となります。
  • 個人名義で賃借していた事務所は、法人成り後に、個人から法人に「又貸しできない」ケースもありますので、事前に大家さんに確認しておく必要があります。
  • 賃借する場合は、周辺相場を参考に「適正な賃貸料」を設定しましょう。
    適切な賃料でない場合は、差額が「役員賞与」と認定されるリスクがありますので、「賃貸借契約書」を作成しておきましょう。

 


(3)建物だけを売却する場合

法人側で減価償却のメリットを享受するため、「建物」だけを法人に売却し、土地は売却せず、個人から法人に賃貸するケースもあります。
この場合、注意しないといけないのは、法人側で、「借地権」の論点が出てくるという点です。

「借地権」というのは、建物と土地の所有権者が異なる場合に、建物所有権者に認められる「土地の利用権」みたいなものです。
原則的には、この土地利用権に対する「権利金」や、「相当の地代」を土地所有権者に支払わなければ、課税の問題が生じます。

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(4)土地の無償返還に関する届出書

個人側が、仮に借地権にかかる「権利金」や「相当の地代」を収受すると、「不動産所得」が生じます。
ただし、「土地の無償返還に関する届出書」というものを提出すると、課税されないという恩典があります。

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この届出書を提出する効果等は、以下の通りです。

定義 土地の無償返還に関する届出書とは、将来、借地人(建物所有者)が、土地を土地権者に返還することを約束する届出書
意味
  • 個人は法人に土地を利用させるが、「借地権」は譲渡していない
    (法人は、「借地権」という財産は持っていない)
  • 土地は、地主である個人が100%所有している
効果
  • 提出することで、借地人は、権利金や地代を支払わなくても、「借地権の認定課税」は行われない。
  • 提出することで、個人が保有する土地の評価は、借地権価額を控除しない
    (自用地評価)。

なお、個人間では、この「土地の無償返還に関する届出書」は認められていません。


(5)法人成り後に生じた不動産所得に対する青色申告の効力

土地建物どちらであっても、「賃貸」の場合は、個人には廃業後も「不動産所得」が生じることになりますので、確定申告が必要となります。
この場合、以前から青色申告を提出していた個人事業主時代の「青色申告」は有効なのでしょうか?

法人成りをする場合、個人事業の「廃業届出書」を提出することになりますが、
以前から個人事業と不動産賃貸業など、複数の事業を行っている場合には、個人事業を廃止した場合も、不動産賃貸業に関する青色申告の効力は消滅しません。

ですので、廃業する際に、「青色申告の取りやめ届出書」は提出しないようにしましょう。


5.個別論点

(1)一括償却資産の引き継ぎは?

個人時代に所有していた「一括償却資産」は法人には引き継げません。事業を廃止した年での必要経費に算入します。

(2)割増償却していた建物の引継ぎは?

割増償却とは、税務上、通常の「普通償却額以上」に償却を認めてくれるものです。
割増償却をしている固定資産を、未償却残高(簿価)で法人に引継ぐ場合は、「通常償却」した場合の簿価との差額につき「低額譲渡」と認定される可能性があります。

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(3)所得税確定申告における留意事項(個人事業主最後の)

法人成り後は、税務署に個人事業の「廃業届」を提出します。個人事業廃止の日までは確定申告が必要ですので、注意しましょう。

(4)個人事業主の事業税見込み控除って?

事業税は所得税上、「通知書受取年度の経費」として処理が可能です。
しかし、法人成りをした最終年度は、通知が「確定申告」に来ますので、タイミング的に個人事業主の最終事業年度の経費にすることができません。

そこで、最終事業年度は、「事業税の見込額」を最終事業年度の経費として認めるという規定があります。
(ただし、個人事業税は、所得税の確定申告をもとに、毎年都道府県税事務所の方で計算しますので、個人で計算するのは少し大変かもしれません)。

(5)新設法人の消費税

会社を設立した場合には、原則的に、消費税が2年間免税されるという特典があります(資本金1,000万円未満等、一定の制約あり)。
なぜなら、消費税の課税事業年度の判定は、2年前の「課税売上」で判定するからです。

では、「法人成り」した場合はどうでしょうか?個人事業主時代の「課税売上」をどう扱うか?迷うかもしれません。

法人と個人事業主は、全くの別人格ですので、新設法人の消費税納税義務の判定にあたっては、個人事業者時代の課税売上高は無視してもらって構いません。
つまり、法人成りの場合は、2年前の「課税売上」がありませんので、法人成り後は原則的に2年間免税事業者となります(資本金1,000万未満等、一定の制約あり)。

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