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個人が不動産を譲渡した場合は、所得税が課税されます。
この点、所得税は、譲渡した収入額全額に課税されるわけではなく、譲渡する際に要した費用や、取得費(取得に要した費用)を差し引いた「譲渡所得」に対して課税されます。

ただし・・取得費については、購入して何十年も経過している場合、過去に取得した時の「支出額」がわからないケースもあります。

そこで今回は、の「譲渡収入」「譲渡費用」「取得費」とはどういったものなのか?
また、取得費が不明の場合の、推定方法等を中心にお伝えします。

1.譲渡所得の算定方法

譲渡所得は、以下の式で算定されます。

譲渡所得=売却収入-(取得費+売却費用)

ただし、マイホーム売却の3000万円の特別控除などがある場合は、上記の「譲渡所得」を算定後、差し引きます。

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2.譲渡収入とは?

譲渡収入とは、不動産の売却価格のことです。
譲渡収入については、売買契約書に記載の金額となるため、あまり迷う論点はありませんが、「固定資産税精算金」の取扱いには注意が必要です。
売却の際に「固定資産税の精算金」(※)が入金されるケースがあります。

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(1) 固定資産税精算金とは?

固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)現在、所有者として登記されている方が、その年1年分を支払います。
したがって、固定資産税は、1月1日以降に売却した場合でも、あくまで1月1日に登記されていた方に「全額納税義務」があります。
しかし、例えば不動産を1月末に売却した場合には、新しい所有者が翌年1月1日まで11か月間所有するにもかかわらず、固定資産税を負担しないと「不公平感」が生じます。
そこで、不動産取引の慣行上、売却時に、「所有期間に応じて」固定資産税負担額を「当事者間」で精算する場合があります。
これが「固定資産税精算金」と呼ばれるものです。買主が、売主に、購入日~12月末までの未経過固定資産税等に相当する額を支払います。

当該「固定資産税精算金」は、あくまで当事者間の売却価格の調整対価と位置付けられ売買代金の一部とされます。
したがって、譲渡所得算定時の「譲渡収入」に含まれます。
 

(2) 建物対応「固定資産税精算金」は課税取引

上記の通り、固定資産税精算金は売買代金の一部と取り扱われるため、「建物部分」の固定資産税精算金は「課税売上」となる点に注意が必要です(土地は非課税)。
 

(3) その他~譲渡収入に含まれるもの

  • 売却代金以外の「実測精算金」や、「持ち回り保証金」
  • 遺産分割の際に、「代償財産」として他の相続人に不動産を引き渡した額(所基通 33-1の5)
  • 離婚の際に慰謝料として不動産を財産分与(所基通 33-1の4)

3.譲渡費用って?

売却する際にかかった費用です。売却費用には、売却するために支出した「リフォーム代」や「交通費」なども含まれます。
譲渡費用として認められるものと、認められないものを例示すると、以下の通りとなります。

売却費用○ 売却費用×
●土地建物を売るための仲介手数量・測量費用・鑑定料等
●登記費用や登録免許税・印紙税(売主が負担したもの)
●売却するための立退料
●売却のための建物取壊費用と建物損失額(※)
●売買契約後に支払った違約金(高い価額で売却するためなど)
●資産の譲渡価額を増加させるために支払ったリフォーム代
●売却交渉のための交通費・通信費
●売却するにあたっての税理士・弁護士等相談料
●借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
●資産の維持管理のための費用(修繕費や固定資産税など)
●物件の抵当権抹消費用(売買の直接費用ではない所基通33-7)
●引っ越し費用など
●売却するための借地権立退料⇒借地権の場合は取得費となる(所基通 33-11の2、38-4の2)

(※)たとえ、売買が土地だけでも、土地を売却するために「建物」を取り壊す場合は、取り壊し費用だけでなく、「建物の未償却残高」も含まれます。

 

4.取得費とは?

取得費とは、売却した不動産を、過去に「取得」した際に支払った額です。
ただし、取得費の範囲は、購入した不動産の本体価格だけではありません。購入時の登記手数料、税金、また購入後に施したリフォーム代等も取得費に含まれます。

(1)取得費の範囲

取得費として認められるものと、認められないものを例示すると、以下の通りとなります。

取得費○ 取得費×
●土地建物の購入・建築代金・設計料・設備費・改良費(通常の修繕以外)・土地の測量費など
●購入時の仲介手数料・登記費用・登録免許税
●購入時の税金(不動産取得税・特別土地保有税・印紙税)
●購入時の固定資産税精算金・造成費(整地・埋立て・地盛りなど)
●増改築費用・庭木・造園費用など
●土地利用目的で購入した建物付土地の「建物購入代金」や「取壊費用」
●契約キャンセルした違約金
●土地建物を購入するための「立退料」・所有権確保のための訴訟費用
●借入金利息のうち、実際使用開始日までの部分(所基通38-8)
●通常の修繕料金
●相続財産である土地を遺産分割するための訴訟費用
●遺産分割代償金として他の相続人に支払った額

なお、相続で取得した不動産についての取得費は、相続時点の相続税評価額ではなく、原始取得価額となります。こちらについては、No120をご参照ください。
 

(2)売却時点の取得費を算定

土地と異なり、建物については、取得の際に支出した金額を、全額「譲渡収入」から差し引けるわけではありません。
建物は、取得後、時の経過とともに経年劣化していくため、取得時点の「取得費」を、「譲渡時点の価値」に修正する必要があります。
建物譲渡時点の取得費は、以下の式で算定します。

 
建物の取得費 = 取得時点の取得価額 - 「旧定額法減価償却費」
 

(3)減価償却費の計算方法

譲渡所得算定時の「減価償却費」は、「旧定額法」で算定します。

 

減価償却費(定額法) = 建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

 
経過年数の6か月以上の端数は1年とし、6か月未満の端数は切り捨てます。
非業務用(マイホームなど)の建物の耐用年数は、通常の事業用建物耐用年数の1.5倍の年数(1年未満切捨)で計算します(所得税法施行令85)。
減価償却費の金額は、建物取得価額の95パーセントまでとなります。90%ではない点に注意です(所得税法施行例85・134①-イ)。
 

【非業務用建物の償却率】

区分 木造 木骨モルタル 鉄骨・鉄筋コンクリート 金属造① 金属造②
償却率 0.031 0.034 0.015(70年) 0.036 0.025

「金属造①」・・・軽量鉄骨造のうち骨格材の肉厚が3ミリメートル以下の建物
「金属造②」・・・軽量鉄骨造のうち骨格材の肉厚が3ミリメートル超4ミリメートル以下の建物

 

5.取得費がわからない場合の概算取得費5%

譲渡不動産が、例えば、先祖代々の相続で取得した物件などの場合・・取得費がわからないケースもあります。
こういった場合、所得税上、「売却額の5%」を「取得費」と認めてくれます。「概算取得費」と呼ばれています。

ただし、上記の「5%概算取得費」の方法を採用した場合は、他に領収書等が存在した「実際費用」があったとしても・・上乗せできません(相続税加算特例除く)。例えば、リフォームした際の領収書だけは見つかったからといって、概算取得費5%に「リフォームの実費」を上乗せすることはできません。

 

6.推定計算

上記の概算取得費は5%しか認められないため、逆にいうと「売却価額」の約95%に税金がかかってしまうことになります
こういった場合、一般的には、推定できる他の資料や統計資料等、合理的に取得費を推計できる根拠があれば、推定額での取得費計算も認められます。

(1) 他の関連資料での推定計算

例えば、下記のような他に確認できる資料があれば、税務署に説明することで、認めてもらえるケースが多いです。

  • 通帳等での購入履歴、住宅ローンの返済履歴
  • 住宅ローンの金銭消費貸借契約書のコピー、返済予定表
  • 購入当時の不動産業者の価格が記載されているパンフレット等
  • 同じマンションの他の契約書事例
  • 住宅ローンの場合は、登記簿乙欄の抵当権の設定額

 

(2) 統計資料での推定計算

上記の他の資料が全くない場合でも、過去の判例では、公表されている統計資料等からの推定計算で「取得費」の算定が認められたケースがあります。
一般的な統計資料としては、以下の資料があります。

①土地

(※1)この指数は、「2010年3月末を100」として、他の年度の割合がいくらか?を示した指標となります。売却価額×指数割合で、購入当時の価額を推定します。
(※2)路線価は国税庁HPに掲載されていますが、直近の7年分しかありません。それ以前のものは、国立国会図書館に保管されています。(ただし、令和5年5月31日まではデジタル化作業のため利用することができないようです。

 

②建物

国税庁より開示されている「建物の標準的な建築価額表」を基にして、購入当時の価額を推定します。
建築年と構造で、1㎡あたりの建築単価が求められるようになっています。

建物取得価額 = 建築年と構造をあてはめて一致する建築単価 × 延べ床面積

その他、着工建築物構造別単価(財団法人建設物価調査会)というのもあります。

③ 注意事項

上記の推計は、法令で定められたものではなく、過去の判例(「平成12年11月16日裁決」)により、認められるであろう、という程度しか言えません。
あくまで、当時の他の資料で取得価額が把握できる資料が全くない場合など、限定的な場面で認められるという理解でよいかと思います。

 

7.参照URL

(未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合)

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/03/10.htm

(建物の取得費の計算)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm

 

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