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法人が自己株式を取得する取引は、実質資本の払戻となるため、資本取引とされます。
ただし、税務上は、資本取引となる金額が定められており、それを超えた部分については「利益積立金」の減少となり、「みなし配当」の論点が生じます。

したがって、自己株式を法人に売却した株主側の立場では、資本を原資とした払戻部分(その他資本剰余金の配当)と、実質配当部分(みなし配当部分)に区別して会計処理を行う必要があります。

今回は、非上場株式を前提に、自己株式を売却する株主側の会計・税務処理・申告書の記載方法をまとめます。
(上場自己株式を、市場で売却する場合は「みなし配当」は生じないため、配当の仕訳が異なります)
 

1.自己株式を売却した場合の会計上・税務上の取扱い

 

(1) 会計処理

自己株式を売却した株主側は、会計上は、他の有価証券の売却と同様、売却額全額が有価証券を売却対価と考えます。有価証券簿価を減少させ、売却額との差額につき有価証券売却損益を認識します

 

(2) 税務処理

税務上は、売却額のうち、「みなし配当」と取り扱われる部分が生じます。
売却額のうち、利益積立金額の減少部分は受取配当金(みなし配当)、資本金等の額の減少部分は、当初払込資本金等の払戻し(株式の譲渡対価)と考えます(完全支配関係がない場合を前提とします)。

つまり、譲渡価額全額が自己株式の売却額ではなく、売却額のうち、配当を除いた部分を「有価証券の売却額」とみる点で、会計と大きく考え方が異なります。
したがって、税務上は、配当を除いた譲渡価額で「有価証券売却損益」を算定する必要があります。

なお、自己株式を取得する法人側の会計処理については、No95ご参照ください。
 

(3)申告調整

会計処理と税務処理が異なるため、申告調整が必要となります。
 

2.例題

  • 自己株式発行会社は未上場会社。資本金400万、発行済株式 普通株式8,000株(1株500円)
  • 上記会社が、特定の株主から自社株式を2,000株、122万円で取得(1株610円)。
  • 自己株式売却額122万円のうち、22万円は、みなし配当部分とする(2,000株×110円)。
  • 売り手(株主)の簿価は、140万円(2,000株×700円)とします。
  • 自己株式売却側と取得側は完全支配関係にないものとし、みなし配当については、その他の株式として「受取配当益金不算入額」50%を行う。

 

(1) 会計処理

借方 貸方
現金
仮払源泉税
有価証券売却損
1,175,076
44,924
180,000
有価証券 1,400,000
  • 会計上は、簿価と売却価額の差額を「有価証券売却損」にします。
  • 借方の「仮払源泉税」は、税務上、配当とみなされる部分(みなし配当)に対応する源泉所得税(220,000円 × 20.42%)です(金額については、下記(2)で説明します)。

 

(2) 税務処理

税務上は、利益積立金額の減少部分は受取配当金(みなし配当)、資本金等の額の減少部分は、当初払込資本金等の払戻し(株式の譲渡対価)と考えます。
つまり、自己株式売却額122万円のうち22万円は配当、残り100万円が有価証券売却による「譲渡収入」と考えます(簿価140万円の有価証券を、100万円で売却)。

借方 貸方
現金
仮払(源泉)
有価証券売却損(※3)
1,175,076
44,924
400,000
有価証券(※2)
受取配当金(※1)
1,400,000
220,000

(※1)「受取配当金」の金額は、一般的に「配当の支払通知書」に記載されています(配当側の「利益積立金額取崩額」と対応します)
(※2)自己株式の簿価(=譲渡原価)
(※3)上記(※2)の譲渡原価140万円と、税務上の株式譲渡価額100万円(122万円-22万円)の差額。
⇒簿価140万の株式を122万で売却したのではなく、122万のうち22万は配当、配当を差し引いた100万(122万―22万)で「売却」したとして「売却損益」を算定します。

(※)「有価証券売却損」と「受取配当金」は相殺しません。それぞれ課税の取扱いが異なるためです。

● 法人株主の場合は、有価証券売却損は「損金」、受取配当金は「益金不算入」となります。
● 個人株主の場合は、有価証券売却損は譲渡所得、受取配当金は配当所得で集計します。

 

3.申告書の記載例

上記例題をもとに、法人株主の場合を前提に、確定申告書の記載方法をお伝えします。
会計上は、有価証券売却損のみが計上されるのに対し、税務上は、「受取配当金」と「有価証券売却損」を計上する必要があるため、申告調整が必要となります。

 

(1)会計⇒税務上の修正仕訳

借方 貸方
有価証券売却損 220,000 受取配当金 220,000
  • 株主が「法人」の場合は、受取配当等の益金不算入(別表8)を通じて申告調整(別表4減算)がありますので、課税所得に影響があります。

 

(2)別表4の記載

【所得の金額の計算に関する明細書】

区分 総額 処分
留保 社外流出
当期利益 ・・・
加算 ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
受取配当金計上もれ(※1) 220,000 220,000
減算 受取配当金益金不算入(※2) 110,000 110,000
有価証券売却損計上もれ(※1) 220,000 220,000

(※1)上記(1)の「会計 ⇒税務修正仕訳」の内容を、別表4に転記します。会計処理上未仕訳につき、税務上申告加減算を行います(留保)。
(※2)上記(※1)に対応する受取配当金の益金不算入の処理です(社外流出)。別表8から転記されます(その他の株式 22万円 × 50%=11万円)
 

(3)別表5の記載

【利益積立金の計算に関する明細書】

区分 期首 当期中の増減 差引
利益準備金
・・・
配当・売却損計上もれ 220,000 220,000
  • 今回は、自己株式簿価と、取得側の「資本金+資本準備金の子会社出資持分」は一致するため、加算減算でゼロになります。

【資本金等の額の明細書】

記載なし
 

4.100%グループ法人間でのみなし配当

100%グループ法人間で、みなし配当等が生じる場合は、例外的に、上記の「株式譲渡損益」が計上できません。株式の譲渡収入額=譲渡原価の額とみなされます(法法61条の2⑯)。

この場合、株式の譲渡損益部分は、税務上「資本金等の額」を加減算されます(法令8条1項22号)。つまり、上記例題では、有価証券売却損計上もれ22万円は別表4で減算できず、別表5で「資本金等の額」の減少及び同額の利益積立金額を増加させる申告調整となります。

なお、100%グループ法人間の受取配当金については、完全子法人株式等に該当しますので、受取配当金は全額益金不算入となります(法法23条1項)。

詳細は、「グループ法人内取引の取扱い」をご参照ください。

 

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