会社法上、時価より低い価格での「第三者割当増資」(有利発行増資)は、株主総会決議を要件に、法律上は有効に成立します(会社法199条3項)。
しかし、別の論点として、「有利発行増資」を実行した場合、税務上、株主に「贈与税」が課税される場合がありますので、留意が必要です。

第三者割当増資とは・・第三者に引き受けてもらう株式発行形態。
既存株主に対する増資の場合も、(株式保有割合と関係なく)特定の株主に対して発行する場合は「第三者割当増資」に含まれます。



1. みなし贈与の規定

贈与税は、個人間の取引で、贈与を受けた個人に課税される税金です。
「贈与」の法律行為は、基本的に「両者合意」を要件に成立しますが(民法第549条)、相続税法上は、「両者合意」がない場合でも、「贈与行為と同等の経済事象」があることに着目し、「贈与とみなす」規定があります。
下記の「相続税法第7条」となります。
 
基本的に、個人間の譲渡には「所得税」が課税されますが、相続税法第7条はあえて「贈与」と規定されているため、当該事象に該当する場合は、「みなし譲渡所得課税」ではなく、「贈与税」が課税されることになります。

(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)

第7条 著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から 贈与により取得したものとみなす。



2. 第三者割当増資でなぜ「贈与税」が発生するのか?

「時価よりも低い価格」で「第三者割当増資」を行った場合、株主間で、「株式価値の移転」が生じる場合があり、その場合は「相続税法7条」に基づき、「贈与税」が課税されることになります。
以下、具体例で解説します。



3. 具体例

  • 資本金15百万円(株発行済株式 1,500株、社長兼株主 100%所有)
  • 増資前貸借対照表の純資産 150百万円
    (増資前の一株当たり時価10万円/株)
  • 今回、事業承継対策として、子供に50百万円の増資を実行する


(1) 増資50百万円を「時価10万円/株」で実行した場合(増資株数 500株)

増資50百万円を、増資直前の時価10万円/株で行った場合、増資株数は500株となります(50百万円 ÷ 10万円)。
この場合、増資前後の社長・子供それぞれの保有持ち分は、以下の通りとなります。

増税前 増税後
純資産 150百万円 200百万円
発行済株式数 1,500株 2,000株
増資後の持ち分 1,500株 (100%) 150百万円 1,500株 (75%) 150百万円
0株 (0%) 0円 500株 (25%) 50百万円

  • 増資により、社長保有割合は100% ⇒ 75%に減少するが、時価増資のため、増資後の一株当たり時価は、10万円で増資前と変わらず(200百万円÷2,000株)。
  • 増資後「社長持ち分金額」は10万円 × 1,500株 = 150百万円。増資前後で変わらず
  • 増資後「子供持ち分金額」は10万円 × 500株 = 50百万円。

(結論)

時価発行増資の場合、「社長持ち分金額」は、増資前後で変わらず、息子への財産価値の変動は生じないため、「贈与税」は課税されません。

 

(2) 増資50百万円を、時価より安い「1万円/株(有利発行)」で実行した場合(増資株数 5,000株)

会社法上は、社長が反対しない限り、「有利発行増資」は可能です。
増資50百万円を、増資直前時価よりも低い1万円/株で行った場合、増資株数は5,000株となります(50百万円 ÷ 1万円)。
この場合、増資前後の社長・子供それぞれの保有持ち分等は、以下の通りとなります。

増税前 増税後
純資産 150百万円 200百万円
発行済株式数 1,500株 6,500株
増資後の持ち分 1,500株 (100%) 150百万円 1,500株 (23%) 46百万円
0株 (0%) 0円 5,000株 (77%)円 154百万円

  • 増資により、社長保有割合が100% ⇒ 23%に減少し、増資後の一株当たり時価も3.08 万円に減少(200百万円÷6,500株)。
  • 増資後「社長持ち分金額」は3,08万円 × 1,500株 = 46百万円となり、増資前150百万円と比較して、104百万円減少する。
  • 増資後「子供持ち分金額」は3.08万円 × 5,000株 = 154百万円となり、払込50百万円と比較して、104百万円増加する。

(結論)

有利発行増資により、増資前の社長持ち分104百万円が子供に移転します。
この部分は「経済的利益の移転」として、子供に「贈与税」が課税される可能性があります。



4. 著しく低い価額の目安

贈与税が課税される基準となる「著しく低い価額」は、実態判断となりますが、過去の判例を参考にすると、実務上は、概ね時価の8割程度が基準となります。

(「東京地判平成19年8月23日(行ウ)第562号」)

詳しくは、「みなし贈与・著しく低い価額での贈与とは?」をご参照ください。



5. ご参考~非上場株式を時価より低い価格で売買し、贈与税が課税されるとした判例

(平成10年分及び平成11年 分の贈与税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分・一部取消し・平17年1月19被裁決)【東裁(諸)平16-179】