けがや病気で就業できなくなった場合、収入が減少し、日常生活に支障が生じることになります。こういった「就業不能時」の収入を保障する商品として、「所得補償保険」「就業不能保険」という保険があります。自営業の方に限らず、サラリーマンなど個人の方も加入できます。また、従業員の福利厚生を目的として、法人で加入できる「所得補償保険」もあります。
こういった保険に加入している場合、受け取った保険金に所得税は課税されるのでしょうか?また、支払った保険料につき、経費や所得控除にできるのか?疑問が生じます。
今回は、「所得補償保険」等の受取時、支払時の税務上の取扱いにつき解説します。

 

1 個人事業主には「傷病手当金」がない

社会保険に加入する会社員等の方が就業不能に陥った場合、健康保険から、最大1年6か月まで、「傷病手当金」が支給されます。一方、自営業の方などが加入する「国民健康保険」については、原則として、「傷病手当金」がありません(障害年金を除く)。こういった背景より、実務上は、自営業の方などが、今回の「所得補償保険」「就業不能保険」に加入されるケースが多いです。

 

2 所得補償保険・就業不能保険とは?

所得補償保険・就業不能保険は、どちらも、病気やケガなどで働けなくなった場合に、その間の収入を補償してくれる保険です(第三分野保険)。

 

(1) 両者の違い

「所得補償保険」は、損害保険会社の商品で、比較的短期の保障に備えやすい商品です。保険期間は、1年ごとの更新で、毎年保険料が変わります。保険金を受け取れるまでの「免責期間」も、7日程度と短く設定されているため、数週間程度の入院などでも保険金を受け取れる商品が多いです。
一方、「就業不能保険」は、生命保険会社の商品で、長期にわたり保障を受けられる点が特徴です。保険期間は10年、20年など比較的長期で設定されています。一方で、保険を受け取れるまでの「免責期間」は、60日~180日と長い商品が多いため、数週間程度の入院などの場合には適していません

 

所得補償保険 就業不能保険
保険金受取事由 病気・けがなどで就業不能(第三分野保険・傷害保険)
取扱会社 損害保険会社 生命保険会社
保険期間・受取期間 短期(1年更新等) 長期(10年、20年、65歳満期等)
免責期間 短期(7日間程度) 60日・180日等
所得税 非課税
その他 精神疾患は対象外の商品が多い 精神疾患も対象になる商品あり

 

(2) ご参考 収入補償保険

上記の他、生命保険会社で取り扱う「収入補償保険」という商品があります。「収入補償保険」は、けがや病気等「就業不能時」ではなく、「死亡や高度障害状態」の場合に受け取れる商品となります。したがって、目的が「所得補償保険」とは大きく異なります(第一分野保険)。「収入補償保険」は死亡後の備え、「所得補償保険」は就業不能時の備えとして、両方加入するケースもあります。
なお、「収入補償保険」は、被保険者の死亡時や受取時に相続税、贈与税、所得税(雑所得)が課税されます。

 

3 団体長期障害所得補償保険(GLTD)

(1) GLTDの特徴

従業員の福利厚生を目的として、法人で加入できる「所得補償保険」もあります。団体長期障害所得補償保険(GLTD)と呼ばれています。従業員が、けがや入院等で就業不能になった場合に、給与の一部を保障してくれる保険です。
GLTDの特徴は以下の通りです。

 

● 団体契約のため、保険料が割安に設定されている
保険期間を長く設計することが可能なため、長期間の補償が可能
● 精神疾患等にも対応している商品が多い
● 役員などの経営者も加入が可能

 

(2) 傷病手当金との関係

社会保険に加入する法人の従業員が休業する場合、健康保険から「傷病手当金」が支給されますので、必ずしも、GLTDが必要というわけではありません。しかしながら、「傷病手当金」は、「期間中、給与の支払がない」ことが要件とされ、支給した給与金額につき、傷病手当金から減額されます。一方、「所得補償保険」を受け取った場合、傷病手当金が減額されることはありません。こういった背景より、「傷病手当金」を補完する観点でGLTDに加入するケースもあります。

 

(3) 全員加入型と任意加入型

GLTDは、大きく①全員加入型と②任意加入型の2種類に分かれます。①全員加入型は、従業員全員を被保険者として、保険料全額を法人が負担するタイプです。一方、②任意加入型は、加入を希望する従業員が、自己負担で任意に加入するタイプです。どちらのタイプも、法人契約となるため、法人から保険会社に支払いますが、保険料の負担が会社か個人か?という点が異なります

 

4 所得補償保険・就業不能保険の税務上の取扱い(個人・個人事業主)

(1) 受取保険金は非課税

所得補償保険・就業不能保険で受け取った保険金は、「身体の傷害に基因して支払を受ける保険金」に該当し、所得税は非課税となります(所施令30条、9-22)。

 

    【所基通 9-22】
    被保険者の傷害又は疾病により・・・保険金は、令第30条第1号に掲げる「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」に該当するものとする。
    (注) 業務を営む者が自己を被保険者として支払う当該保険金に係る保険料は、当該業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することができないのであるから留意する。

 

    【所得税施行令 30】 抜粋
    法第9条第1項第18号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるもの・・・とする。
    三 心身又は資産に加えられた損害につき支払いを受ける相当の見舞金・・・

 

(2) 生計を一にする親族も同様

受取人が、奥様など「生計を一」にするその他の親族の場合も、所得税は課税されません(所基通9-20)

 

    【所基通 9-20】  身体に損害を受けた者以外の者が支払を受ける傷害保険金等
    令第30条第1号の規定により非課税とされる「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」は、・・・その支払を受ける者がその身体に傷害を受けた者の配偶者若しくは直系血族又は生計を一にするその他の親族であるときは、当該保険金又は給付金についても同号の規定の適用があるものとする。

 

(3) 支払保険料は生命保険料控除(経費×)

保険料支払額については、年末調整・確定申告等で生命保険料控除(介護保険料控除)が可能です。なお、自己を被保険者とした所得補償保険・就業不能保険の支払保険料は、「家事費」となりますので、たとえ個人事業主の場合でも、支払額が全額経費になるわけではない点、注意が必要です。

 

5 団体長期障害所得補償保険(GLTD)の税務上の取扱い(個人・法人)

GLTDの場合、契約者は法人となりますが、保険金は被保険者に直接支払われる商品が多いです。以下、受取人が個人の場合を前提に記載します。

 

(1) 受取保険金は非課税(個人)

受取人が従業員個人の場合、個人側では所得税非課税となります(上記4と同様)。

 

(2) 支払保険料は経費OK(法人)

任意加入型の場合、法人が保険料を負担することはありません。従業員から預かった保険金を預り金等で処理し、預かった金額を保険会社に支払えば完結します(損金不可)。一方、全員加入型の場合は、法人が保険料を負担しますので、当該保険料は、「福利厚生費」として、支払時に一括経費処理が可能です。
ただし、受取人が個人の場合は、給与課税との関係に注意が必要です。例えば、役員だけなど「特定の者」のみが加入する場合は、「福利厚生費」の要件を満たさないため、「支払った保険料」が給与扱いされ、個人側で所得税が課税されます。
なお、任意加入型で、従業員個人が負担した保険料は、年末調整時に生命保険料控除の対象となります(介護保険料控除)。

 

(3) 受取人が法人の場合は?

受取人が法人の場合、受け取った保険金は法人側で益金に算入されます。
一方、支払った保険金は、原則として損金算入できる点、上記(2)と同様です(支払保険料)。所得補償保険は、第三分野保険となりますので、基本的には医療保険と同じ扱いになります。GLTDは、無事故返戻金がなく、保険期間と保険料払込期間が一致する保険商品(全期払)が多いため、原則として支払時に「一括経費処理」が可能です。

 

なお、法人名義・法人受取の場合、個人側への給与課税の論点はありません。ただし、法人が受け取った保険料を、従業員個人に見舞金等(福利厚生費)の名目で支給する場合、全額損金に算入できない論点があります。
こちらについては、別途まとめていますので、こちらをご参照ください。

 

6 「非課税」となるのは身体の障害に起因したもののみ!

所得税が非課税となるのは、「身体の障害に起因した支払」に限定されます。「所得補償保険」の商品によっては、身体の障害以外のケースで支給されるものもあります。例えば、介護休業等で減少した収入を補てんするような商品は、「身体の障害に起因した支払」ではありませんので、所得税は非課税にはなりません
「雑所得」として個人側に課税されます。

 

7. 参照URL

【NO1760 所得補償保険の保険金を受け取ったとき】
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1760.htm
介護休業を取得した従業員に保険会社から支払われる所得補償保険金
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/01/14.htm
No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれない場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5364.htm

 

8. Youtube

 
YouTubeで分かる「退職後の社会保険」
 

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