ストック・オプションと会計処理方法
目次
1.ストックオプションって何?
特定の金額(権利行使価格)で自社の株式を購入できる権利のことを指します。
2.どんなメリットがあるの?
役員や従業員にストックオプションを付与して、将来的に自社株価が上昇した場合には、結果的に、報酬を付与することと同じ効果があります。
つまり、役員等のモチベーションを高める側面があります。
簡単な例で説明しますね。
(例)
自社株を1,000円で購入する権利を付与 ⇒ この株価が、将来市場株価が10,000円になった場合?
メリット | |
---|---|
役員・従業員側のメリット |
|
会社側のメリット |
|
3.どんな会社に向いている?
- 高い報酬を支払えないベンチャー企業等が、優秀な人材を集めたい場合に、将来の報酬を約束する手段として採用
- 報酬実現のためには、将来自社株式を購入売却するステップが必要となるため、株式の流動性が高い株式公開を目指すような会社に向いている。
4.誰に付与するの?
従業員だけでなく、社外の取引先や外注先にも付与することができます。
5.ストックオプションの種類は?
「無償ストックオプション」と「有償ストックオプション」があります。
前者は、権利付与時に払込を行いませんが、後者は、権利付与時に新株予約権の公正価額の払込を行います。
「無償ストックオプション」は、さらに「税制適格」「非適格」に分かれます。
「1円ストックオプション」と呼ばれるものは、「税制非適格」の方ですね(株式報酬型ストックオプション)。
なお、現時点では、有償ストックオプションは、法的には「報酬」の位置づけにはなりません。
6.適格?非適格?
「無償ストックオプション」では、「税制適格」「非適格」の区分が重要となります。
税制適格になると税制上の恩典があります。
違いは、「適格」の場合は、権利行使時に課税が繰延されるのに対し、「非適格」の場合は、課税される点です。
(例)
- (A) 権利行使価格 1,000円
- (B) 権利行使時の時価 5,000円
- (C) 株式売却時の時価 10,000円
(税制適格・非適格の比較)
・権利行使価格の払込
税制適格 | 税制非適格 | |
---|---|---|
権利付与時(A) | 課税なし(払込なし) | 課税なし(払込なし) |
権利行使時(B) | ・課税なし ・権利行使価格の払込 |
課税あり(行使時時価ー行使価額) ・権利行使価格の払込 |
行使時の所得金額(給与所得)(※) |
– |
B(5,000) -A(1,000) = 4,000 |
株式売却時(C) | 課税(売却額ー行使価額) | 課税(売却額-行使時時価) |
売却時の所得金額(譲渡所得) | C(10,000) -A (1,000) = 9,000 | C(10,000) – B(5,000) = 5,000 |
会社側の処理 | 給与部分はなし | 給与部分は損金可 |
摘要 | 税制適格であれば、売却時にまとめて税金がかかりますので、こちらは資金的にはだいぶ楽になりますね。 | 「権利行使時」って、まだ株式を売却していない段階ですので、お金も入ってないのに、先に税金だけかかるってことです。付与された側とすれば、非常に厳しいですね。 |
(※)通常は給与所得ですが、退職所得の要件を満たす場合は、退職所得となります
(権利行使期間が退職から10日間に限定されている場合)
また、給与所得部分は、ストックオプションを発行した会社側では「給与」として損金算入できます。
7.税制適格ストックオプションの要件(主なもの)
(1)発行形態・付与対象者
発行形態 | 無償発行 |
---|---|
付与対象者 | 会社及びその子会社の取締役、執行役、使用人又はこれらの相続人 |
留意事項
- 監査役、外注先等は×です。また、発行済株式総数の1/3超を有する大口株主も×です。
- 通常、ベンチャー企業は経営者が発行済株式総数の1/3超有するケースが多いため、注意です。
(この場合、有償ストックオプションを利用するケースが多いです)。
(2)行使価格
「付与時の時価以上」が要件
留意事項
- 2回目付与時に、「1回目付与時の株価と同じ価格」で発行する場合などは注意しましょう。
- 2回目付与時点では、初回の低い株価から既に株価が上昇している場合がありますので、その場合には、税制適格要件を満たさないことになります。
(この場合、有償ストックオプションを利用するケースが多いです)。
(3)その他の要件
権利行使期間 | 付与決議日後、2年を経過した日から10年を経過する日まで |
---|---|
権利行使限度額 | 行使価格 年間1,200万円まで(行使価格です。株式時価×) |
譲渡制限 | 譲渡制限がある株式となります |
留意事項
- 例えば、1回目に400万円、2回目に1,600万円分の権利行使の場合、合計額の2,000万円から1,200万円を控除した800万円ではなく、1,200万円を超えることとなった2回目の権利行使価額すべてが課税対象となります。
8.有償ストックオプション
有償発行のストックオプションというのもあります。
権利付与時に、新株予約権の「時価」で払込を行うストックオプションです。
付与時は時価で払込するだけで、課税されません。
また、行使時にも課税されませんので(※)、「税制非適格」と比べると課税のタイミングが遅くなります。
そのため、税制非適格に該当する場合は、無償に代えて「有償ストックオプション」が利用されるケースもあります。
(※)行使により取得した株式の取得価額は、行使時の時価ではなく、払込価額(「行使価額」+「新株予約権の取得価額」)となります。
「税制非適格」と「有償ストックオプション」を比較すると、以下の通りとなります。
税制非適格 | 有償ストックオプション | |
---|---|---|
権利付与時(A) | ・課税なし(払込なし) | ・課税なし(新株予約権公正価額を払込) |
権利行使時(B) | ・課税あり(行使時時価ー行使価額) ・権利行使価格の払込 |
・課税なし ・権利行使価額の払込 (取得価額は、行使価額+新株予約権取得価額) |
権利行使時の所得区分 | 給与所得 | - |
株式売却時(C) | 課税あり(売却額ー行使時時価) | 課税あり(売却額ー払込価額) |
株式売却時の所得区分 | 譲渡所得 | 譲渡所得 |
会社側の処理 | 給与部分は損金算入 | 給与部分はなし |
9.仕訳(税務上の仕訳)
未公開企業では、ストックオプションを「本源的価値」で評価できますので、「無償発行」の場合はゼロ評価される場合が多いです(「自社株式の評価額」よりも低い行使価格を設定した場合を除く)。
つまり、「無償発行」の場合は、会計上も税務上も会計処理はありません。
しかし、「有償発行」の場合は、付与時に「公正価値」で払込を行うため、会計処理が必要となります。
簡単な例で、非上場会社を前提した「有償ストックオプション」の税務上の仕訳を記載します。
(例)
- 新株予約権の発行価額1,000円(=公正価値)、権利行使価額3,000円
- ただし、発行価額1,000円のうち、200円(権利行使価額600円分)は権利行使せず失効した。
(1)発行側の仕訳
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
新株予約権 発行時 |
現金 | 1,000 | 新株予約権 | 1,000 |
新株予約権 行使時 |
新株予約権 現金 新株予約権 |
800 2,400 200 |
資本金 資本金 新株予約権戻入益(特別利益) |
800 |
(2)取得側の仕訳
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
新株予約権 発行時 |
新株予約権(その他有価証券) | 1,000 | 現金 | 1,000 |
新株予約権 行使時 |
株式(その他有価証券)
新株予約権失効損(特別損失) |
3,200 200 |
新株予約権(その他有価証券) 現金 新株予約権 |
800 2,400 200 |