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会社法上、「属人的株式」という概念があります(会109Ⅱ)。
種類株式と全く別物の制度となりますが、実質的には種類株式と同様の効果があり、事業承継対策として活用されています。株主平等原則(会109Ⅰ)の「例外的」な位置づけです。

今回は属人的株式とはどういったものなのか?種類株式との違いや、事業承継対策としての属人的株式の活用事例につき解説します。

 

1.属人的株式と種類株式の違い

種類株式は、「株式」ごとに、内容が異なる種類を定めた制度で、例えば、配当優先株式などが代表例です。
種類株式は、保有する「株主」によって権利内容に差異はありません
一方、属人的株式とは、株主ごとに、定款で、配当、残余財産の分配、議決権に関する内容につき異なる権利を定めた株式をいいます(会109Ⅱ)。つまり、属人的株式は、保有する「株主」ごとに種類を設けている点で、種類株式とは異なります。
 
「属人的株式」は、以下の3つの権利に限定で、株主ごとに異なる取扱いをすることを「定款」に定めることができます。

剰余金の配当
残余財産の分配
株主総会における議決権

例えば、Aさんには「配当を多く与え、議決権は与えない」、Bさんには「議決権を2倍与える」というように、株式ごとではなく、株主ごとに差異を設けた設定が可能です。
ただし、①と②(剰余金の配当と残余財産の分配)を全く与えない「定款」は認められません(会105Ⅱ)。
 

2.属人的株式発行のための要件

属人的株式の発行は、非公開会社(すべての株式につき譲渡制限がついている会社)に限定されています。要件は以下の通りです。

非公開会社(すべての株式につき譲渡制限がついている会社)
定款で「株主ごとに株主の権利につき異なる取扱いを行う」旨定める
株主総会の特殊決議(会309Ⅲ)

「属人的株式」は、種類株式と異なり登記事項にはなっていません(定款のみ)。第三者から知られることなく導入可能な点で、種類株式よりも導入しやすい制度です。

 

3.事業承継対策への活用事例

種類株式の場合、1株に複数の議決権は認められませんが、属人的株式の場合は、例えば、「オーナー社長が保有する株式1株につき、10個の議決権を有する」などの設定が可能です。この結果、事業承継等で、経営権を確保したい場合などに活用されるケースが多くあります。
具体的には、以下のようなケースで活用が可能です。
 

オーナー社長の急な死亡に備える
場合
オーナー社長に相続人が複数人いる場合です。例えば、オーナー社長が急に亡くなった場合、一般的に相続手続は時間がかかるため、その間、息子である後継者の株式保有比率が低ければ、迅速な意思決定ができません。こういった場合、例えば、「オーナー社長が議決権を行使できない場合、後継者が保有する株式の議決権を100倍にする」旨を定めておけば、議決権の過半数の確保ができ、会社経営を安定化できます。
経営意思決定だけ自分に残しておきたい場合 例えば、発行済株式総数が100株で、オーナー社長が株式を後継者に承継したいが、後継者がまだ未熟なため、「実質意思決定権」だけを残しておきたい場合を考えます。
「オーナー所有株式の議決権を1株につき100個とする」にしておけば、オーナーが所有する株式の議決権は10,000個になります。
上記の状況で、オーナーに1株だけ残して、残り99株を後継者に譲渡した場合、議決権総数は99個(後継者保有)+100個(オーナー保有)=199個になります。この場合、99株を後継者に譲渡した後も、オーナーは1株(議決権100個)だけで議決権の過半数を確保が可能となりますので、引き続き、経営意思決定は可能です。
なお、属人的株式は、あくまで社長に属する場合のみ効力を有しますので、譲渡して後継者が保有する場合は、1株1議決権に戻ります。


結論ですが、「属人的株式」は、株主にひもづけた制度ですので、例えば、社長が亡くなった場合や、他の方に譲渡したなど、株を保有する方が変わる場合は、「属人」でなくなりますので、引継ぎはされず、1株1個の通常の普通株式に戻ります。一方で、種類株式の場合は、「株式」にひもづいた制度ですので、その株式を取得した新たな株主は、種類株式の効力が継続する点で、大きく異なります。
 

4.属人的株式の定款記載例

例えば、以下のような定款記載例が考えられます。
 

第●条 株主Aは、その保有する株式1株につき100個の議決権を有するものとする。

 

5.Youtube

 
YouTubeで分かる「属人的株式」
 

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