No26.種類株式とは?
目次
1.種類株式ってどんなもの?
株式会社が発行するすべての「株式」は、原則として権利内容が同じですので、1株ごとの株主の権利は平等です(普通株式)。
したがって、会社が各株主を取り扱う際、決め手になるのは「持株数」ということになります。
例えば、クレアビズ社の株主であるAさんは10株保有、Bさんは20株保有しているものとします。
この場合、会社は、Bさんに対して、Aさんの2倍の「議決権」や「配当」を認める必要があります。
一方、株式会社は、上記普通株式のほか、権利内容に違いのある「種類株式」を発行することができます(定款で定める必要あり)
例えば、議決権がない代わりに、配当を優先的に受け取ることができる、①「議決権制限株式」と②「配当優先株式」を組み合わせた「種類株式」を発行できます。
株主の側からすると、議決権に興味がなく、配当のみに興味のある場合は、「議決権制限株式・配当優先株式」で十分ですね。
一方、会社の側から見ても、議決権をあまり行使されたくない場合には、メリットがあるということになります。
会社に対するニーズは、株主によって違うのが普通ですから、株主のニーズに対応した株式を発行できれば会社としても便利ですよね。
2.9種類の「種類株式」
上記のニーズに対応するため、会社法では、以下の9種類の種類株式が認められています。
これらを組み合わせた発行も可能ですので、さまざまな株式設計が可能ですね。
①
|
剰余金の配当 | 配当等に関して、金額や順位に優先権を持つ株式 |
---|---|---|
②
|
残余財産の分配 | 残余財産分配に関して、順位や金額に優先権を持つ株式 |
③
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議決権制限株式 | 議決権を持たない、あるいは異なる議決権を持つ株式 |
④
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譲渡制限株式 | 株式の譲渡の際、発行会社の承認が必要な株式 |
⑤
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取得請求権付株式 | 株主が、会社に対して所有株式の買い取りを請求できる株式 |
⑥
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取得条項付株式 | 一定事由が発生した際、発行会社が、株主から強制的に株式を取得することができる株式 |
⑦
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全部取得条項付株式 | その株式全部を、株主から強制的に取得することができる株式 |
⑧
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拒否権付株式 | 一定事由が発生した際、拒否権を有する株式(黄金株とも呼ばれます) |
⑨
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選解任株式 | 取締役や監査役を、選解任できる権利を持つ株式 |
3.活用方法
種類株式を活用することで、さまざまなメリットがあります。
ここでは、目的別にまとめてみました。
(1)経営安定化・事業承継・相続目的
種類 | メリット | |
---|---|---|
① | 議決権制限株式 |
|
② | 譲渡制限株式 |
|
③ | 拒否権付株式 |
|
④ | 取得条項付株式 |
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(2)資金調達目的
種類 | メリット | |
---|---|---|
① | 議決権制限株式 |
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② | 配当優先株式 |
|
③ | 取得条項付株式 |
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(3)事業再生目的
種類 | メリット | |
---|---|---|
① | 残余財産分配 株式 |
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② | 取得請求権株式 |
|
③ | 取得条項付株式 |
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(4)コンプライアンス
種類 | メリット | |
---|---|---|
① | 選任権付株式 |
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4.種類株式発行のための手続
種類株式を発行するには、以下の手続きが必要です。
- 株主総会の決議による定款変更
- 定款に「発行する種類株式の内容」と「発行可能種類株式総数」を定める。
- 登記
普通株式のみ発行している会社がその一部を種類株式に変更する場合にも、株主総会での決議、株主全員の同意を得る必要があります。
5.種類株式の株式評価は?
普通株式と比較して多様性がある種類株式は、一般的に評価が困難となります。
実際、事業承継の場合等で、これらの種類株式はどうやって評価するのでしょうか?
ここでは、代表的な3つの種類株式につき、「国税庁相続税評価方法」をまとめます。
(1)配当優先無議決権株式(=配当優先権+無議決権)
配当優先無議決権株式の評価 | 5%減額 |
---|---|
その他の株式 | 5%増額 |
(要件)
- 相続税申告書の法定申告期限までに、遺産分割協議が確定
- 株式相続する全同族株主が、5%増減計算の選択届を提出
- 所定の計算様式を、相続税確定申告書に添付
(2)社債類似株式
社債類似株式とは、一定期日に、発行会社が発行価額で償還する、議決権を有しない株式のことです。
内容は社債に類似していますが、評価は、(利付公社債の評価ではなく)「発行価額」で評価する点が特徴的です。
つまり、業績が順調な会社であっても、「発行価額」で評価されますので、相続税評価を引き下げることが可能です。
(3)拒否権付株式
普通株式にはない「拒否権」がプラスされていますので、評価は高くなると考えがちですが、実は普通株式と同様に評価することになっています。
つまり、拒否権付株式を発行することは、相続対策として有効な手段となります。
6.上場審査と種類株式
種類株式については、上場企業だけでなく、上場審査上も内容や影響等の審査が慎重に行われます。
なぜなら、種類株式の内容によっては、普通株主の権利が制約されることがあるためです。
普通株式の権利を不当に制約するものだと判断されれば、上場は認めてくれません。
(実際、上場会社で発行している種類株式は、配当や残余財産分配等の優先株式がほとんどです。)
(上場が認められる種類株式 東証有価証券上場規定)
- 議決権付株式を1種類のみ発行している場合の、当該議決権付株式
- 複数の種類の議決権付株式を発行している場合の、議決権の少ない方の株式
- 無議決権株式(無議決権株式のみor議決権有株式とセットも可)
上場審査基準でも、株主が不当な制限を受けないよう厳しい制限が設けられています。特に、①拒否権付種類株②買収防衛策としての種類株式は、重点的にチェックされます。
7.属人的種類株式
今まで説明した、種類株式とは異なりますが、会社法上は、種類株式と同様の効果がある、いわゆる「属人的種類株式」と呼ばれるものがあります。
非公開会社(すべての株式につき譲渡制限がついた会社)では、以下の権利につき、株主ごとに異なる取り扱いをすることを「定款」に定めることができます。
(1)剰余金の配当
(2)残余財産の分配
(3)株主総会における議決権
例えば、(1)(2)は与えるが、(3)は与えないという選択も可能です。
また。(3)については、議決権を1個ではなく10個与えることも可能ですので、事業承継等で、経営権を確保したい場合などに活用されるケースが多くあります。
(属人的種類株式を発行するための要件)
- 非公開会社(すべての株式につき譲渡制限がついている)
- 定款で「株主ごとに株主の権利を異なる取り扱いを行う」旨定める
- 株主総会の特別特殊決議
種類株式と異なり登記事項にはなっていませんので、第三者から知られることなく導入可能な面では、種類株式よりも進めやすいかもしれませんね。
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