1円ストック・オプションの課税関係
「1円ストック・オプション」って聞いたことありませんか?
「株式報酬型ストック・オプション」の一つとして、よく利用される手法です。
1. どんなもの?
「権利行使価額」が1円に設定されたストック・オプションです。
発行価額は、一般的に「無償」で行います。
税法上は「非適格」となり、権利行使時に課税されます。
2. メリット・デメリット
1円ストックオプションは、「税制非適格」で、権利行使時に課税されてしまうのに・・なんでわざわざ利用するの?っという疑問の声もあるかもしれません。
それは、法人・従業員とも、以下のメリットがあるからです。
特に法人側では、給与を損金にできるメリットが大きいです。
法人側 | 従業員側 | |
---|---|---|
メリット |
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デメリット |
|
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(※)給与総額は、ストック・オプション付与時の時価とほぼ同額
3. どういうケースで利用?
従業員の「退職金代わり」として活用するケースが多いです。
最近では、役員退職慰労金を廃止して「1円ストックオプション」を導入するケースも多くなっています。
「退職所得」に該当すれば、役員側は、安い税率で利益を得ることが可能です。
退職所得に該当するためには、「退職に基因して権利行使が可能」と認められなければなりません。
事例として、「権利行使期間を退職から10日間に限定」し、退職時に行使した所得につき、「退職所得」と認められている事例があります(㈱伊藤園)。
(ご参考~個人側の所得税の課税区分)
給与所得 | 下記以外 |
---|---|
退職所得 | 退職に起因して権利行使が可能な場合 |
雑所得 | 退職後、長期間経過後に行使した場合など、主として「職務の遂行に関連しない利益」が供与されていると認められる場合 |
4. 税法上の取扱い
(1) 適格・非適格?
「1円ストックオプション」は、税法上の適格要件である「権利行使価格が付与時の時価以上」という要件を満たさず、「非適格」となります。
非適格ストック・オプションは、「権利行使時」に、法人側は損金算入され、従業員側は課税されます。
(詳しくは、ストックオプションと会計処理方法を参照ください)
法人側 | 従業員側 | |
---|---|---|
付与時 | 損金 × | 課税されない |
行使時 | 損金 ○ | 給与所得・退職所得 |
譲渡時 | 損金 × | 譲渡所得 |
(2) 付与対象者が役員の場合
ストック・オプションの付与対象が「役員」の場合、「役員報酬の損金算入」の規定に留意です。
税制改正により、ストック・オプションは「役員給与税制」の対象となり、他の金銭報酬同様の取扱いとなります。
この結果、ストック・オプションは、「事前確定届出給与」か「一定の業績連動給与」に該当する場合に「損金算入」が認められることになります。(退職金として支払う場合は、従来通り、原則損金算入可)
(ご参考~事前確定届出給与に該当するための要件~)
- 市場価格のある株式が交付される新株予約権
(適格新株予約権・法34条1項2号ハ)
なお、将来の役務の提供に係るものとして「政令で定める要件」を満たす場合は、税務署への「事前届出」自体が不要になります。(法34条1項2号イ)
(事前届出不要の要件)
- 職務執行開始日(株主総会)から1 カ月以内に、取締役会等で「所定の時期に確定した数の新株予約権を交付する」旨を決議
- 上記決議から1 カ月以内に、新株予約権を給与として交付
5. 参照URL
(権利行使期間が退職から10日間に限定の所得区分)
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/gensen/07/02.htm
(法人税法第54条 新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340AC0000000034_20181117_430AC0000000007&openerCode=1#621
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