みなし配当とは?
1.みなし配当とは?
株主が、法人から金銭等を受け取る場合、例えば、法人へ「自己株式」を売却する場合などに生じます。
税務上は、受け取った金銭のうち「利益の払戻」に該当する部分が「配当」とみなされます。
これが「みなし配当」と呼ばれるものです。
「みなし配当」は、「配当所得」となり、金銭等を受け取った方(株主側)に税金がかかります。
株主が個人の場合、「配当所得」は、「譲渡所得」と異なり「累進税率による総合課税」
⇒税額が大きくなる傾向がありますので、注意しましょう。
なお、「当初出資金額」より低い金額で、「自己株式を売却」した場合は、みなし配当は生じません。
(利益の払い戻し部分がないため)
2.みなし配当が生じるケース
代表的なケースは以下となります。
(金銭等(金銭・株式・その他の資産)の交付がある場合に限られます)。
生じるケース | 生じないケース |
---|---|
非適格合併 |
|
非適格分割型分割 | |
資本の払戻(資本剰余金の減少をともなう剰余金の配当)or 残余財産の分配(※1) |
|
自己株式の取得 | 例外的に、「自己株式取得」で「みなし配当」にあたらないケース
その他いろいろあります(法法24①四、法令23③、法法61の2⑬) |
(※1)「解散」の場合、みなし配当が多額になる場合があるため注意。
(※2)市場を通じた自己株式の取得では「みなし配当」が生じないため、取得法人側は、「資本金等の額」から「自己株式の取得価額」をそのまま減算することができます(利益積立金からの減算はなし)。
なお、上場会社が、TOB(株式公開買付)により自己株式を取得した場合は、「みなし配当」が生じます。
(相続により取得した「非上場株式」の特例)
また、相続により取得した「非上場株式」を発行会社に譲渡した場合は、「みなし配当」が生じない特例があります(措法9の7)。
ただし、この特例を適用して「みなし配当」が生じない場合も、自己株式取得側は「資本金等の額」と「利益積立金」をそれぞれ減少させる処理が必要となります(法人税23条3項反対解釈)
3.みなし配当の税務上の取扱い
「配当所得」となりますので、支払法人側は「源泉徴収」義務が生じます。
4.みなし配当額の算定方法
みなし配当額=株主等への交付金銭等-左記のうち「資本金等の額」対応部分
(※)「資本金等の額」は、法人税別表5(1)Ⅱの金額をいいます。
(例題)
簿価純資産額100,000(うち、「資本金等の額」30,000・発行済株式総数600株)の会社が、自己株式30株の取得を行い、株主に5,000の金銭払戻しを行った。
この場合のみなし配当額は?
(みなし配当額の計算)
5,000千円(交付金銭)- (30,000千円/600株)× 30株 = 3,500(みなし配当額)
(上記式の意味)
- 株主等から取得した自己株式(30株)のうち、資本金等の額に対応する部分は?
(自己株取得前)1株当たり資本金等の額(30,000千円)÷ 600株 × 30株=1,500千円
⇒「減少資本金等の額」 - 次に、交付金銭5,000から、上記「減少資本金等の額」3,500を差引いた額1,500
⇒「みなし配当額」(利益の払戻)
(ご参考)
資本金等の額に対応する部分は、以下の式でも算定できます。
5,000千円(交付金銭)× (30,000千円/100,000千円) = 1,500千円
上記の意味は、以下の通りです。
今回の交付金銭のうち資本金等の額は?
今回の交付金銭は、純資産(資本金等の額+利益積立金)を返還するもの。
⇒純資産のうち、資本金等の額を占める割合を求めればよい。
⇒今回の交付金銭 × 「簿価純資産に占める資本金の割合」 ⇒ 資本金等の額の減少部分
5.税務処理
法人が、株主から「自己株式を取得」した場合を例にしますね。
(1)取得側(法人)
- 資本の払戻部分・・「資本金等の額」減少
- みなし配当(利益の払戻)部分・・「利益積立金」の減少
「自己株式取得の会計処理/税務処理」の箇所で、具体的な数値と仕訳を使って説明しています。
ぜひご参照ください。
(2)売却側(株主)
売却側は、受け取った金銭等のうち、みなし配当部分は「受取配当金」処理を行います
(取得側の「利益積立金の減少部分」に対応)。
そして、譲渡額から受取配当金を除いた額を売却額として、「譲渡損益」を計算します。(※)
「自己株式を売却した株主側の会計処理/税務処理」の箇所で、具体的な数値と仕訳を使って説明しています。
ぜひご参照ください。
(※ ご参考~売却側が譲渡損益を計上できない場合等)
H22改正により、以下の改正がおこなわれました。
- 100%グループ法人間では、株式の発行法人への譲渡は「株式譲渡損益」が計上できない。
- 非適格合併の抱合株式(合併法人が有する被合併法人の株式)については、「株式譲渡損益」の計上ができない
- 「発行法人が自己株取得を予定している」株式を取得し、発行法人へ譲渡した場合の「みなし配当」は「益金不算入制度」が利用できない。
(完全支配関係グループ内は除く)。
6.配当等とみなす金額に関する支払調書(同合計表)
「みなし配当」を行った法人は、支払日(or支払確定日)から1か月以内に、税務署に支払調書・合計表を提出し、株主への送付も必要となります。
「源泉所得税の納付特例」を受けている法人も、特例の適用はなく、「1か月以内」の提出となりますのでご留意ください。
<< 前の記事「剰余金配当の会計処理と申告書の記載」次の記事「自己株式って何?」 >>