解約返戻金のない医療保険等の税務処理
医療保険・がん保険などは「第三分野保険」と呼ばれます。
こういった第三分野保険は、保険期間が「終身」で「解約返戻金がない」ものが多いですね。
また、保険払込期間は、「有期払」(※)が一般的かと思います。
従来、法人が支払う「解約返戻金のない医療保険・がん保険等」は、保険料支払時に全額損金算入が可能でした。
しかし、2019年の税制改正により、解約返戻金のない「短期払の定期保険又は第三分野保険」は支払時に一括損金算入ができなくなりました。
今回は、解約返戻金のない「定期保険及び第三分野保険」の取扱いについてまとめます。
なお、解約返戻金のある定期保険・第三分野保険にかかる税務処理は、こちらをご参照ください。
(※)有期払とは、「保険料払込期間」が保険期間より短いものを指します。
代表例は、保険期間「終身」で、保険料払込期間が10年など「有期」のものです。
1. 定期保険・第三分野保険とは?
定期保険とは、人の死亡を保険事故とする生命保険の一種です。
一方、第三分野保険とは、医療保険やがん保険、介護保険などのことです。
2. 解約返戻金がない第三分野保険等の税務上の取扱い
(1) 保険期間が有期払のもの
解約返戻金がなく、払込期間が「有期払」の保険料にかかる税務上の取扱いは、以下の通りとなります。
① 原則
支払った保険料は、原則として、期間の経過に応じて損金に算入します。
つまり、保険料支払時に一括経費にはできず、一部を資産で計上します。
保険料払込期間中 | 支払保険料のうち、 ① 「年間保険料 × 保険料払込期間 ÷ 保険期間」で算出した金額を「保険料」として損金算入 ②上記①の残りは「保険積立金」として資産計上 (※)終身タイプの第三分野保険の「保険期間」は「116歳 – 契約年齢」で計算 |
---|---|
保険料払込期間終了後の期間 | 払込期間終了後は、116歳になるまで、毎年上記①の金額を「保険積立金」から取崩し、同額を「保険料」として損金算入します。 |
② 例外
解約返戻金のない有期払の定期保険又は第三分野保険で、一被保険者当たり年間支払保険料が30万以下のものは、支払った年度に一括損金にできます(解約返戻金がごく少額なものも含む)。
(2) 保険期間が有期払でないもの
保険期間と保険料払込期間が一致しているものは、従来通り「全額損金算入可能」です。
例えば、保険期間が終身、保険料払込期間も終身タイプの医療保険などです。
3. 具体例
- 3月決算法人
- 2020年4月1日に医療保険(第三分野保険)に加入
- 被保険者 社長 契約時の年齢50歳
- 保険期間 終身 解約返戻金なし
- 保険料払込期間 8年(有期払) 2028年3月31日最終払込
- 年間保険料 600千円
(各年度の税務処理)
決算年度 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
2021/3 ~ 2028/3 (1~8年目) (※1) |
保険積立金(資産) 支払保険料(経費) |
527 73 |
普通預金 | 600 |
2029/3以降(116歳まで) (※2) | 支払保険料(経費) | 73 | 保険積立金(資産) | 73 |
(ご参考) 給付金受取時(医療保険) |
普通預金 | ×× | 雑収入 | ×× |
(※1)600千円(年間保険料)× 8年(払込期間)÷ 66年(※)= 73千円
(※)116歳 ‐ 50歳 = 66年 (終身タイプのため116歳までが計算期間)
(※2)払込期間終了後も、毎年経費にする金額は(※1)と変更ありません。
ただし、支払はありませんので、過去に積み立てた「保険積立金」を取り崩していきます。
4. 「年間支払保険料」30万以下とは?
先ほどお伝えした通り、解約返戻金のない有期払の定期保険又は第三分野保険で、一被保険者当たり年間支払保険料が30万以下のものは、支払った年度に一括損金にできます。
実務上は、この基準で判断する場合が多いと思いますので、留意事項や具体例を記載します。
(1) 留意事項
- 解約返戻金がないタイプのみです。
- 1事業年度、1被保険者あたり、全保険会社への支払総額が30万円以下です。
(2) 具体例
- 2020年3月期・・A保険会社 短期払終身医療保険加入(年間30万円)
- 2021年3月期・・B保険会社 短期払終身医療保険加入(年間10万円)
(2021年3月期の支払 ⇒ A保険30万円 & B保険10万円) - 2022年3月期・・B保険会社の保険を解約
(2022年3月期の支払 ⇒ A保険30万のみ)
(3) 各年度の税務上と取扱い
2020年3月期 | A保険 全額損金OK |
---|---|
2021年3月期 | A・Bとも一部資産計上、一部経費 |
2022年3月期 | A保険 全額損金OK |
(ポイント)
- 2021年3月期の会計処理は、当該年度に加入したB保険だけでなく、2020年3月期に加入したA保険も、一部経費が否認されます。
- 2022年3月期は、B保険を解約した結果、支払はA保険だけになっています。
この場合、当該年度の支払保険料合計は30万円以下となるため、A保険30万円全額を損金に算入することができます。 - つまり、30万基準の判断は、1つの保険会社保険料だけでなく、複数の保険料の影響を合算して検討する必要がある点、十分にご留意下さい。
5. 参照URL
(保険料等)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
(定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/teikihoken_FAQ/index.htm
<< 前の記事「000」次の記事「解約返戻金のある定期保険等の税務処理」 >>