タックスヘイブン対策税制って何?
目次
2016年に、新聞等で「パナマ文書」がクローズアップされていましたね。
「世界中の著名人がタックスヘイブンを利用した租税回避!」という内容でした。
グーグルやアマゾン、スターバックスなど大手の企業も絡んでいたため、大きな話題となりました。
今回は、タックスヘイブンそして、タックスヘイブン対策税制の概要をまとめます。
1. タックスヘイブンとは?
簡単に言うと租税回避地(オフショア・オフショア金融センター)のことです。
世界中の資産を誘致するために、意図的に税金を安くして「外国資本」を獲得しようとしている国や地域のことです。
有名な所は、ケイマン諸島、モナコ、ドバイなどでしょうか。みなさんも一度は聞いたことあるかもしれませんね。
この「タックスヘイブン」にペーパーカンパニーを作って「国内資産」を移転すれば、国内税金が減少するため、「全世界ベース」の税金を安く収めることができます。
2. タックスヘイブンは違法?
タックスヘイブン自体は「国際税法」上、違法なことではありません。
しかし、タックスヘイブン利用による「行き過ぎた租税回避」は、故郷の国の税収減少、産業流出など、さまざまな弊害が生じてしまいます。
また、不正な資金やテロ資金などマネーローンダリングの温床になることも指摘されています。
3. タックスヘイブン対策税制って?
タックスヘイブンによる「行き過ぎた租税回避」を規制するのが「タックスヘイブン対策税制」です。
海外にペーパーカンパニーなどを設立&利益をプールする場合、(保有株式持分に対応する)留保所得を日本の所得とみなして、日本で合算課税する制度です。
シンガポールや香港なども、日本よりは税率がかなり低くなっていますので、タックスヘイブンです。
4. 対象となる法人・納税義務者
(1) 対象となる法人(租法40の4①、66の6①、68の90①)
対象となる法人は、外国関係会社等のうち、特定外国子会社です。定義は以下の通り。
外国関係会社等 | 外国法人のうち、居住者や内国法人・非居住者である内国法人の役員により50%超出資されている法人 |
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特定外国子会社 | 軽減税国(※)に、本店もしくは主たる事務所を有する法人 |
(※)平成29年改正により、いわゆるトリガー税率(租税負担割合基準20%未満)は廃止されました。
ただし、事務負担軽減措置という観点から、租税負担割合が20%以上の場合は、原則として「制度適用」が除外されています。
(イメージ図)
(2) 納税義務者(租法40の4①、66条の6①、68の90①)
特定外国子会社等への出資者等のうち、次のいずれかに該当する者
- 特定外国子会社等に10%以上を出資する居住者又は内国法人等
- 特定外国子会社等に10%以上を出資する同族株主グループに属する居住者又は内国法人等
なお、タックスヘイブン対策税制の「納税義務者」は、法人だけでなく、日本の居住者つまり「個人」の場合にも適用されます。
5. 適用除外
この制度は、ペーパーカンパニー等を利用した「行き過ぎた租税回避」を防止することにあります。
ですので、軽減税国に所在している法人でも、
その法人が、「独立企業としての実態を備え、かつその国で事業活動を行う十分な経済的合理性がある」場合は「適用除外」となります。
以下の「適用除外基準」すべてを満たす場合は、適用除外となります。
(1) 事業基準
特定外国子会社等の営む「主たる事業」が、次の事業でないこと
- 株式や債券の保有を営む法人(「事業統括会社」に該当する場合は除く)
- 工業所有権・技術に関する権利・著作権の提供等
- 船舶若しくは航空機の貸付(一定要件を満たす航空機リース会社は除く)
(赤字 平成29年改正により追加)
(2) 実体基準
特定外国子会社等が、本店所在地国で事業を行うために必要な「事務所、店舗、その他固定資産設備」を有していること。
(3) 管理支配基準
特定外国子会社等が、本店所在地国で、事業の管理、支配及び運営を自ら行ってること。
例えば、株主総会や取締役会の開催場所など、総合的に勘案して判断します。
(4) 所在地国基準又は非関連者基準
① 所在地国基準(下記② 非関連者基準が適用される事業は除く)
主たる事業が、下記②に記載の事業以外の場合は、「所在地国」基準が適用されます。
所在地国基準は以下の通りです。
主たる事業を、主として本店所在地国で行っていること。
(例)メーカー⇒製造行為の主たる部分が「本店所在地国」で行われている。
② 非関連者基準
主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業、航空機の貸付の場合(赤字 平成29年改正追加)の場合は
非関連者基準が適用されます。
非関連者基準は、以下の通りです。
「非関連者」との取引割合が50%超であること。
これらの事業は、必然的に国際的な活動になるため、所在地国による基準は実態にそぐわないため、「非関連者との取引割合」で判断します。
なお、適用除外を受けるためには、「確定申告書にその旨を記載した書面」(別表17(二)を添付し、適用除外を明らかにする書類の保存が必要です(租法66の6⑦)
6. 資産性所得
ただし、上記5の「適用除外要件」を満たす場合も、
下記の「資産性所得」を有する場合は、当該資産性所得のうち「株式等保有割合に応じた金額」が日本の所得に合算課税されます。
(資産性所得)
- 株式保有割合10%未満の株式等の配当にかかる所得orその譲渡所得
- 債券利子にかかる所得orその譲渡
- 工業所有権及び著作権提供による所得
- 船舶又は航空機の貸付による所得
(2,000万以下の場合は適用しない「デミニマス・ルール」があります)
7. 受動的所得に対する課税の見直し
平成29年改正により、一見して明らかに受動的所得(配当や利子など)しか得ていない(経済実態のない)ペーパーカンパニー等で、税負担率が20%以上30%未満の場合は、その所得の全額を合算する改正が行われています。
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