N0264 不動産売却・保険の解約返戻金等の一時的な収入がある場合、「国民健康保険」の負担は増えるのか?/社会保険上の扶養への影響は?
例えば、不動産を売却した場合や、保険の解約返戻金等の「一時的な収入」がある場合、来年の国民健康保険の金額は高くなってしまうのでしょうか?
また、夫の扶養に入っている奥様に「一時的な収入」がある場合、夫の社会保険の扶養から外れてしまうのか?心配になる方も多いかもしれません。
今回は、不動産売却など、「一時的な収入」がある場合の、国民健康保険、社会保険上の扶養への影響等につきお伝えします。
1 国民健康保険料への影響は?
(1) 国民健康保険料の計算方法
国民健康保険料の「所得割」の計算は、以下の式で算定されます。前年の「総所得金額等」をもとに、翌年の健康保険料が決定されます(後期高齢者医療保険も同様)。
所得割の所得 = 総所得金額等 - 住民税の基礎控除(43万円)
● 上記式中の「総所得金額等」については、「所得割」の計算の他、国民健康保険の「均等割額」や「平等割額」の軽減判定にも用いられます。
(2) 国民健康保険上の「総所得金額等」とは?
上記式中の「総所得金額等」は、以下の所得で構成されます。不動産を売却した際の譲渡所得や株式配当、保険の解約返戻金などの一時所得も含まれます。
したがって、こういった所得が発生した翌年は、健康保険料の金額が増加することになります。
【総所得金額等を構成する所得】
総合課税 | ① 利子所得・配当所得(源泉分離課税除く) ② 不動産所得・事業所得・給与所得(繰越控除後) ③ 総合課税の短期譲渡所得・長期譲渡所得(1/2後) ④ 一時所得(1/2後)・雑所得 |
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分離課税 | ① 土地建物等の短期・長期譲渡所得 (繰越控除後・特別控除後) ② 上場・一般株式等の譲渡・配当所得(申告分離課税選択の場合) (繰越控除後) ③ 先物取引に係る雑所得 ④ 山林所得 |
● 土地建物等の短期・長期譲渡所得とは、売却額そのものではなく、「売却収入から取得費や譲渡費用等の諸経費を差し引いた金額」となります。
諸経費を差し引いた結果、「譲渡所得」がマイナスの場合、「総所得金額等」はゼロとなります。
● 上場株式の譲渡や配当につき、源泉分離課税を選択した場合は、「総所得金額等」には含まれません。
● 退職所得は含まれません。
● 各種の所得控除(医療費控除等)は差し引く前の金額です。
(3) 住民税上の「総所得金額等」と異なる点
国民健康保険料計算時の「総所得金額等」は、基本的には「住民税上の総所得金額等」と同じ概念となりますが、譲渡所得の特別控除額(マイホーム売却益3,000万円の特別控除等)の取扱いが異なります。
税法上の「総所得金額等」は、特別控除差引前の金額となりますが、国民健康保険算定上の「総所得金額等」は、特別控除差引後の金額で算定できます。
【住民税上の総所得金額等との違い】
国民健康保険上の 総所得金額等 |
住民税上の 総所得金額等 |
|
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土地建物の譲渡所得の特例の特別控除 (3,000万円控除等) |
控除後の金額 | 控除前の金額 |
なお、「退職所得」については、住民税、国民健康保険とも、「総所得金額等」に含まれません(所得税上の「総所得金額等」については、退職所得が含まれる点に注意)。
つまり、国民健康保険上の「総所得金額等」は、譲渡所得3,000万円の特別控除や、退職所得差引後の金額で算定できるため、税法上の「総所得金額等」と比べると、金額は少なくなります。
(4) 会社員等が加入する「社会保険」への影響なし
勤務先の「社会保険」に加入している会社員等の場合は、毎月の給与等を基準とした「標準報酬月額」に基づき、社会保険料が決定されています。
こういった「社会保険」に加入されている方の場合は、たとえ不動産売却など「一時的な収入」が発生した場合でも、標準報酬月額に影響することはありません。
つまり、ご自身が負担する社会保険の金額への影響はありません。
2 医療費の自己負担割合への影響は?
国民健康保険や、後期高齢者医療保険に加入されている方は、年齢や、所得に応じて医療費の「自己負担割合」が変わります(現役並み所得者は3割負担、その他の場合は1割or2割)。当該自己負担割合を決定する際も、国民健康保険上の「総所得金額等」で決定されます。したがって、不動産売却等一時的な収入がある場合は、医療費の自己負担割合に影響があります。
3 社会保険の扶養への影響は?
(1) 社会保険上の扶養の要件
会社員の方など「勤務先の社会保険」に加入されている場合、奥様を、「被扶養者」として、社会保険上の扶養に入れられているケースも多いと思います。
社会保険上の扶養に入れるためには、「収入130万円(60歳以上は180万円)以内」という要件が要求されています。
(2) 配偶者に一時的な収入がある場合は?
夫の扶養に入っている配偶者に、不動産売却収入や、保険の解約返戻金等の一時的な収入がある場合、社会保険上の扶養から外れてしまうのでしょうか?
社会保険上の扶養判定は、「継続的な収入」、例えば「アルバイト収入」など、「継続的に収受する収入」をもとに判定されます。
したがって、不動産譲渡所得などの「一時的な収入」は、除外して判定できますので、社会保険の扶養から外れることはありません。
ただし、健康保険組合や共済組合によっては、「一時的な収入」と認められず、扶養の取扱いが異なるケースもあるようですので、注意が必要です。
なお、国民健康保険の場合は、そもそも「扶養」という概念がありません。
4 ご参考 ~税法上の影響~
税法上は、各人の状況に応じて、さまざま「所得控除等」が認められていますが、所得控除の要件として、「合計所得金額・総所得金額」の上限が定められているケースが多いです。
当該税法上の「合計所得金額・総所得金額」についても、不動産売却、保険の解約返戻金などの「一時的な収入」が含まれます。したがって、基礎控除、扶養親族や配偶者控除等への影響があります。
【具体例】
基礎控除 | 本人の合計所得金額 2,500万円以下 |
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扶養控除 | 生計一親族の合計所得金額 58万円以下(令和7年改正) |
配偶者控除 | 本人の合計所得金額 1,000万円以下 生計一配偶者の合計所得金額 58万円以下(令和7年改正) (配偶者特別控除は合計所得金額 133万円以下) |
また、所得税上の所得控除を判定する際の「合計所得金額」は、譲渡所得の特別控除額(3,000万円の特別控除等)差引前の金額となります。したがって、例えば、3,000万円特別控除適用により、所得税等が安くおさえられている場合でも、「税法上の扶養」からは外れてしまうケースがあるため、注意が必要です。
税法上の「扶養」への影響については、こちらをご参照ください。
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