No266【令和6年拡大】中小企業の役員や個人事業主が加入できる「労災保険特別加入」とは?

 

業務上の怪我や病気で、「労災認定」が行われた場合、労災保険では、自己負担なく治療を受けられたり、働けなくなった間の生活資金などが保障されています。
しかしながら、労災保険は「労働者」の災害保護を目的とするため、会社役員や個人事業主等は保険の対象となりません。そこで、「労働者」に該当しない中小事業主等や、個人事業主等でも労災保険に加入できる「特別加入制度」が認められています。
今回は、「特別加入制度」に加入できる対象者のうち、「中小事業主等」・「一人親方等」の内容を中心にお伝えします。

 

1. 加入できる方・受けられる給付

労災保険の「特別加入制度」とは、会社役員や個人事業主の方などで、業務や災害発生状況から見て、労働者に準じて保護するのが相当な人に、例外的に労災保険の加入を認める制度です(建設業など)。

 

(1) 特別加入で受けられる給付

「特別加入」の場合でも、一般の労働者向けとほぼ同等の補償を受けられます。主な補償は以下の通りです。

 

【業務災害・通勤災害に対する補償】

療養(補償)給付 指定医療機関での治療費、入院費等が全額補償。
休業(補償)給付 休業4日目以降は「給付基礎日額」の80%が支給。
障害(補償)給付 後遺症が残った場合、障害等級に応じた年金や一時金が支給。
遺族(補償)給付 死亡の場合に、遺族に年金や一時金が支給。
傷病(補償)年金 長期療養(1年6か月)以上になったときに、障害等級により、年金や一時金が支給。
介護(補償)給付 重度障害が残った場合に、介護費用が支給。
葬祭料(葬祭給付) 葬儀費用の一部を支給。

 

(2) 加入できる方

特別加入ができる対象者は、大きく、以下の3種類に区分されます。

第1種特別加入者 中小事業主等
第2種特別加入者 一人親方等(一人親方・その他の自営業者・特定作業従事者)
第3種特別加入者 海外派遣者 

以下、解説していきます(今回は、「海外派遣者」については省略します)

 

2. 中小事業主等(第1種特別加入者)の加入要件

(1) 中小事業主等とは

中小事業主等とは、
① 一定の規模以下の中小企業で、労働者を常時使用する事業主本人
② ①の事業に従事している労働者以外の人(事業主の家族や、法人の役員など)を指します。

 

なお、従業員を雇用していない場合は、「中小事業主等」には該当せず、第2種特別加入者(下記「3.一人親方等」)に該当するか?を検討します。

【業種ごとの労働者数の要件】

事業の種類 常時雇用する労働者数
金融・保険・不動産・小売業業 50人以下
卸売・サービス業 100人以下
上記以外の業種 300人以下

 

(2) 加入要件

以下の2つの要件を満たす必要があります。

  • 1. 労働保険関係が成立していること(労働者を1人以上雇用し、労災保険関係が成立)
  • 2. 労働保険事務処理を、労働保険事務組合に委託していること

なお、労働者以外の家族従事者などが業務に従事する場合は、原則として、全員を含めて特別加入申請を行う必要があります。

 

【労働保険事務組合とは?】
労働保険事務組合とは、中小企業などの事業主に代わって、労働保険に関する書類の作成、申告、納付手続などを行う厚生労働大臣から認可された団体です。商工会議所など事業主団体の他、社会保険労務士事務所に併設されている場合も多いです。中小企業主は、労働保険事務組合に委託しないと「特別加入」はできません。¥労災保険料とは別に、会費が必要となり、組合等に応じてサービス内容は異なります。

 

3. 一人親方その他の自営業者(第2種特別加入者)の加入要件

(1) 一人親方その他自営業者とは?

一人親方その他自営業者とは、建設業などの「特定業種」で、労働者を雇用せず、自分だけで事業を行う個人事業主等を指します。従業員や他の役員がいない1人会社も含まれ、個人事業主の家族従業員も含みます
また、一人親方その他自営業者に該当しない業種でも、法令で定められた「特定作業従事者」に該当する場合は、特別加入が認められます。

 

代表的な業種・作業は以下の通りです。

一人親方・その他の自営業者 特定作業従事者
● 個人タクシー業者、個人貨物運送業者など
(自動車運送・原動機付自転車・自転車含む)
● 建設業者(土木・建築・解体など)
● 漁船による自営漁業者
● 林業
● 医薬品配置販売業
● 再生資源・産業廃棄物処理業
● 船員(船員法第1条に規定する者)
● 柔道整復師
● 創業支援等措置に基づく高年齢者
● あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師
● 歯科技工士
● 特定農作業従事者
● 指定農業機械作業従事者
● 国・地方公共団体が実施する訓練従事者
● 家内労働者及びその補助者
● 労働組合等の常勤役員
● 介護作業従事者
● 家事支援従事者(家政婦・家政夫)
● 芸能関係作業従事者
● アニメーション制作作業従事者
● ITフリーランス

 

(2) 改正 「特定フリーランス業」も加入可能に

令和6年11月1日より、「特定フリーランス事業」も労災保険特別加入ができるようになり、広範な業種で加入資格が認められるようになりました。
特定フリーランスとは、業種を問わず、企業などから「委託を受けて事業を行う者」を指し、営業、講師、デザイン・コンテンツ制作、翻訳通訳、インストラクター、講師、コンサルティングなど幅広い業種が認められます。一人親方等と同様、労働者を使用しない個人事業主、1人会社が対象となります。

 

【特定フリーランスの対象外となるケース】
● 消費者からのみ業務委託を受けている場合。
● 企業からの業務委託はあるが、別途異なる事業で消費者から委託を受けている場合(同種事業で消費者から委託を受ける場合は加入OK)。
● 業務委託ではなく、企業や消費者に向けて商品やサービスを販売するケース。

 

(3) 加入要件

以下の2つの要件を満たす必要があります。

  • 1. 「特定業種」で、労働者を常時雇用していない一人親方・その他の自営業者
    (特定フリーランス事業も含む)
  • 2. 労働保険事務処理を、特別加入団体に委託していること

 

なお、労働者を使用する場合でも、労働者の使用日合計が、年間延べ100日未満であれば、一人親方等として加入することができます。100日以上雇用する場合は、一人親方特別加入ではなく、第1種特別加入者(上記「2.中小企業者等」)に該当するか?を検討します。

 

【特別加入団体とは?】
特別加入団体とは、一人親方・その他自営業者などに代わって、労働保険に関する書類の作成、申告、納付手続などを行う都道府県労働局長から認可された団体です。一人親方等については、特別加入団体に委託しないと「特別加入」はできません。業種別・作業別に、特別加入団体が多数存在します。労災保険料とは別に、会費が必要となり、団体等に応じて必要書類やサービス内容が異なります。

 

4. 特別加入保険料の計算

「中小事業主等」と「一人親方等」は、加入区分は異なりますが、保険料の計算方法は大きく変わりません。以下の計算式で算定されます。

 

特別加入保険料 = 給付基礎日額 × 365日×業種ごとの特別加入保険料率

 

● 「給付基礎日額」とは、一日あたりの「平均賃金」のことを指しますが、特別加入の場合は、過去の賃金総額から算定されるわけではなく、加入者本人が、3,500円から25,000円までの範囲で、自ら金額を決定できます
● 「特別加入保険料率」は、第1種~第3種でそれぞれ異なります。

 

【具体例】

  • 一人親方等 (建設業・特別加入保険料率17/1000)
  • 給付基礎日額を「25,000円」で設定した場合/li>

 

25,000×365日×17/1,000=155,125円/年 (全額自己負担)

 

5. 通常の労災保険(労働者向け)との違い

労働者向けの労災保険と、特別加入は、補償の基本的な枠組みは同じですが、加入対象者や加入形態、保険料負担等の点で異なる点があります。参考に下記比較します。

項目 従業員労災 特別加入
対象 労働者 労働者以外(一人親方、中小事業主、特定作業従事者、海外派遣者など)
加入形態 法定加入(事業主手続き) 任意加入
保険料負担 全額事業主負担 本人負担
給付基礎日額 直近給与から計算 自己申告により給付基礎日額を選択
休業補償給付
(所得喪失要件)
会社から平均賃金の6割以上の休業補償や給付が支給されている場合は支給されない例外あり 例外なし。労災認定されれば、必ず休業補償が給付される
ボーナス特別支給金
二次健康診断
あり なし
加入申請方法 会社申請 労働事務組合・特別加入団体経由で加入申請(個人での申請は不可)

 

6. ご参考 労災保険と健康保険との違い

労災保険と健康保険は、治療費や休業中の保証等の点で共通点もありますが、適用範囲や保険料の負担、給付内容等が大きくが異なります。
比較すると以下の通りです。

項目 労災保険 健康保険
適用範囲
(利用場面)
● 業務災害
● 通勤災害
● 業務外の怪我や病気
● 労働保険適用外
保険料負担 事業主全額負担 労使折半(社会保険)or 個人負担(国民健康保険)
治療費自己負担 自己負担なし 原則3割負担
給付内容 休業補償
● 傷病補償
● 障害補償
● 介護補償
● 遺族補償 等
傷病手当金
● 出産手当 等

なお、労災事故の場合は、必ず労災保険から保険給付をうける必要があり、個人側で健康保険を選択できるものではありません。

 

7. 参照URL

【厚生労働省 労働保険への特別加入】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/kanyu.html
[ 特定フリーランス事業に加入できる場合・できない場合]
https://www.mhlw.go.jp/content/001385202.pdf

 

8. Youtube

 

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