No263【労災保険給付金】職場や通勤中の事故等でもらえる「休業(補償)等給付」とは? アルバイトも対象?支給額の計算は?
職場でのけがや病気・通勤中の事故により、「労災認定」を受ける場合、労災保険上、さまざまな給付金を受けることができます(休業補償給付・療養補償給付・傷病補償年金・障害補償給付・遺族補償給付・相殺給付・介護保障給付)。
このうち、代表的なものは、「休業中の所得を補償する「休業(補償)給付」です。
今回は、「休業(補償等)給付」の対象となるもの、支給要件等につき解説します。
目次
1. 休業補償給付の対象は?
(1) 給付「休業(補償)等給付」とは?
「休業(補償)等給付」とは、業務災害・通勤災害による負傷・病気等で、「労災認定」を受ける場合に支給される保険給付です(労災保険法)。「通勤災害」も含まれる点が特徴です(なお、通勤災害は「休業給付」、業務災害は「休業補償給付」と呼ばれます)。
(2) アルバイトも含まれる
労災保険は「労働基準法上の労働者」が対象となるため、雇用関係により賃金を得ている方は、すべて給付の対象となります。したがって、たとえアルバイトの場合でも支給対象となります(給付内容も、正規雇用者と同様)。
2. 支給要件・支給期間
(1) 支給要件
「休業(補償)等給付」の支給要件は、以下の4つです。
業務上の事由or通勤による負傷や疾病 | ● 業務外や、私的な事由(休業・休憩時間中等)による負傷・疾病は対象外 ● 天災地変による被災は、原則として対象外。 |
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労働することができないこと | ● 「全部労働不能」の他、通院などで「一部労働できない場合(一部労働不能)も含まれる。 ● 「療養前の業務に戻れない」状態を指すわけではなく、例えば、現場作業員が足を怪我した場合でも、事務作業ができる場合は、支給要件を満たさない。 |
賃金を受けないこと | ● 所定労働時間の全部or一部の労働ができず、平均賃金の60%未満の賃金しか支払われていない場合を指す。 ● 有給休暇により賃金が支払われている場合も対象外。 ⇒ 休業(補償給付)と、有給休暇の重複利用は不可。 |
(2) 3日間の待期期間あり
上記の他、給付金支給の要件として、労災事故から「通算3日間の待期期間」があり、通算3日間の休業日数が必要です。公休日や有給休暇も待期期間に含めてカウントでき、連続していなくても、通算3日間休業していれば成立します。
なお、原則として、「負傷した当日」から休業日数に数えられますが、所定労働時間終了後(残業時間中)の労災は、翌日から休業日数を数えます。
(3) 支給期間
特に期限は定められておらず、要件を満たしている限り支給されます。したがって、例えば、退職した場合でも、労災事故が原因で仕事ができない状況が続いていれば、支給は継続します(再就職等により、仕事ができる状況にあった時点で打ち切り)。
なお、1年6か月を経過しても治らず、一定程度の障害状態(傷病等級1級~3級)に認定された場合は、「休業(補償)等給付」の支給から、「傷病(補償)年金」の支給に切り替わります(認定されない場合は、休業補償給付が継続支給)。
3. 支給額
(1) 原則的な支給額
「休業(補償)等給付」の支給額は、原則として、以下の計算式で算定します。
休業特別支給金=給付基礎日額×(休業日数-3日)×20%(※)
(※)休業(補償)給付の要件を満たす場合、「社会復帰促進」の観点で、自動的に、給付基礎日額の20%が「特別支給」されます(労災保険法29条)。
(2) 給付基礎日額(平均賃金)算定方法
給付基礎日額は、1日当たりの「平均賃金」をさし、以下の計算式で算出します。
(※)休業開始直前の「賃金締め日」からさかのぼって3カ月間の賃金総額(額面)。残業や通勤交通費は含みますが、賞与は含みません。
事故発生8月15日、給与 月末締翌月25日払 給与額面30万円
休業開始直前賃金締め日 7月末⇒さかのぼって3カ月間(5月~7月⇒92日)
90万円(3カ月の給与額面) ÷ 92日 = 9,783円/日
なお、アルバイト社員など勤務日数が少ない方は、最低保証額が適用されます。
(3) 休業日数とは?
休業して賃金支払がないすべての日を指し、土日は含まれます(有給休暇は重複適用不可)。⇒結論、休業対象月の「暦上の日数」となります。
給付基礎日額1万円。4月の全日、休業した場合】
1万円×30日(暦上の日数)×(0.6+0.2)=240,000円
(4) 支給額が調整されるケース
一部労働日があるケース (部分算定日) |
支払われた賃金部分を調整した金額が支給される。 |
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障害厚生年金・障害基礎年金が支給される場合(※) | 同一の事由により支給される場合は、休業補償給付の金額が調整減額される。 |
交通事故等で自賠責保険から休業補償を受ける場合 | 損害の二重填補を防ぐため、両保険において調整される(ただし、「休業特別支給金」については調整されない)。 |
交通事故等による示談成立 | 示談が成立し、示談額以外の損害賠償請求権を放棄した場合、労災保険の給付は行われない。 |
(※)なお、通常の老齢年金の場合は、「老齢」を原因として支給されるものであり、労災の休業補償給付とは「支給事由」が異なります。したがって、老齢年金との関係で「支給調整」されることはありません。
4. 支給手続
(1) 申請者
休業(補償)給付の申請は、原則として被災した従業員本人(亡くなった場合は遺族)が行いますが、会社が代行することも可能です(従業員の請求が困難な場合、会社側に労災申請を助けることが法律で義務付け。助力義務)。
(2) 提出書類
「休業補償給付支給請求書」・「賃金台帳」、「出勤簿」の写しなどを提出します。あわせて、労働できない状態であることにつき、医師からの証明書も必要です。
なお、支給申請を提出し、労災が認定されるまで、1か月~3か月程度といわれています。
(3) 申請期限
休業補償給付の申請期限は、労務不能日(休業した日)の翌日から2年となっています。2年を経過すると、請求できなくなる点に注意が必要です。
(4) 受任者払い
労災保険の申請から受給までは1カ月以上の時間がかかることが多いです。こういった背景より、休業中は、一旦、事業主から給与を従業員に全額支払い、「休業補償給付」を事業主が受け取る制度が認められています(「受任者払い」)。従業員からの「委任状」を、労働基準監督署に提出すれば利用できます。
(5) ご参考~事業主が労災保険に加入していない場合は?~
たとえ「事業主」が、労災保険に加入していない場合でも、労働者が業務または通勤中に傷病を負った場合は、休業(補償)給付を受けることができます。
なお、会社が事業主証明の提出を拒否した場合でも、ご自身で労災保険の請求手続きを行うことは可能です。
5. 他の制度との違い・比較
(1) 健康保険法上の保険給付「傷病手当金」との違い
健康保険の傷病手当金は、「仕事以外の病気やケガ」に支給されるのに対し、労災保険の休業補償給付は、「仕事中・通勤中」の病気やケガで支給される点で異なります。なお、一つの負傷・傷病に対して、両方とも受け取ることはできません。「休業の原因」によって、どちらかを受け取ることが可能です。
傷病手当金(健康保険法) | 休業(補償)等給付(労災保険法) | |
---|---|---|
支給事由 | 業務災害以外の負傷・疾病 | 業務上・通勤による負傷・疾病 |
待期 | 連続3日 | 通算3日(継続・断続不問) |
支給額 | (支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額)÷30日×(2/3) | 給付基礎日額×60% (別途 特別支給金20%) |
賃金・報酬等との調整 | 傷病手当金-報酬=支給額 | (給付基礎日額-支払賃金)×休業日数 × 60%(別途 特別支給金20%) |
支給期間 | 通算1年6か月 | 期限なし |
(2) 労働基準法「休業手当」との違い
「休業手当」とは、「雇用主都合で休業」する場合、休業期間中の労働者に、会社側が「平均賃金の100分の60以上」の支払が義務付けられる手当です(労基26条)。休業補償給付のような保険給付ではなく、会社側に支給が義務付けられる「賃金」となり、受け取った個人側は、「所得税の課税対象」となります。
休業手当 (労働基準法) |
休業(補償)等給付 (労災保険法) |
|
---|---|---|
支給事由 | 雇用主の責による休業 | 業務上・通勤による負傷・疾病 |
休日の取扱い | 支給義務なし | 休日も支給対象。 |
給与課税有無 | 賃金のため給与課税対象 | 保険給付のため給与課税対象外 |
支給額 | 平均賃金×100分の60以上 | 給付基礎日額×100分の60 |
6. 休業(補償)等給付で補てんされない部分は、会社から支給(=会社義務)
(1) 民法上は、原則 事業主全額負担
あくまで、労災の「休業補償給付」は、給与全額を支給するものではありません。一方で、休業理由が、事業主に責任がある「業務災害」の場合、民法上は、「給与全額」を事業主が負担することになっています(民536条2項)。したがって、労災から支給されない部分は、会社側で負担が必要になります。
【労災から支給されない金額 = 会社から支給される金額】
以下の2つが会社負担となります。
● 休業開始3日までの給与全額
● 休業開始4日目以降の給付基礎日額の40%相当額
なお、労働基準法では、雇用主負担割合は、平均賃金の60%以上と記載されていますが(労基76条)、60%程度の負担で済む場合は、「過失が、会社側にない場合など」に限定されますので、実務上は、不足額全額を事業主が負担するケースが多いようです。
なお、「通勤災害」については、「使用者」に補償責任は発生しません(国の責任)。したがって、通勤災害については、会社負担は発生しません。
(2) いつまで払うのか?
会社負担額については、従業員が復帰して労災の休業補償給付が終了するまで続きます。(復帰しないまま退職する場合は、退職時まで支払)。
7. 確定申告や社会保険との関係
(1) 休業補償給付は非課税
休業補償給付は、所得税非課税の扱いとなります。一方、休業補償給付で支給されない部分につき、会社から支給された部分は、「給与」となりますので、所得税が課税され、源泉徴収も必要となります。
(2) 社会保険
休業補償給付は、社会保険上も非課税となりますので、給付額から社会保険料が徴収されることはありません。
8. 参照URL
休業補償等給付について
休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続 |厚生労働省
労働災害が発生したとき |厚生労働省
労災保険給付の概要
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyousei/rousai/040325-12.html
労災事故にあった場合、受けることができる給付
https://fukuoka.vbest.jp/columns/disaster/g_other/7086/
https://kigyobengo.com/media/useful/2788.html
9. Youtube