最近は、さまざまな働き方の選択肢がありますので、複数の会社から給料を受け取っている方も結構いるかもしれませんね。
 
今回は、複数の会社から給料を受け取る場合、受け取っているすべての会社の給料から「社会保険料」は天引きされるのか?という論点です。


 

1. どんな場合?

複数の会社から給与を受け取るケースは、例えば、以下のような場合です。
 

  • 勤務している会社と別に、副業でアルバイト給料をもらう
  • 独立して新会社を設立し、新会社から役員報酬を受け取るが、設立当初は、資金繰り等の背景から、従前勤務の会社からも給料を受け取る場合
  • 親会社から給料を受け取っているが、子会社の役員兼務となり、子会社からも役員報酬を受け取る場合

 
他にも、さまざまなケースが想定されます。

 

2. 社会保険加入義務の要件

(1) 各社ごとに要件を満たすかどうか?

複数の会社から給料を受け取っている場合も、単純に、各会社ごとに「社会保険加入義務要件」を満たしているかどうか?
で、「社会保険料負担有無」は決定されます。



 

(2) 社会保険加入義務の要件(従業員の場合)

「社会保険の加入義務」は、従業員数によって要件が異なります。
従業員数501人以上の企業の場合、「社会保険加入義務対象者」は多くなります。

企業区分 加入義務がある方
従業員数500人以下の企業 週の所定労働時間及び月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上の方
(例)正社員勤務時間が週40時間(5日)⇒ 週30時間(4日)以上勤務の方が対象
従業員501人以上の企業 下記の要件をすべて満たす方
 ・の所定労働時間が20時間以上
 ・月額賃金が8.8万円以上
 ・勤務期間1年以上、またはその見込みがある
 ・学生ではない

 
複数の会社から給料をもらう場合、仮にすべての会社で上記要件を満たす場合は、
すべての会社で「社会保険加入義務」あり ⇒ すべての会社で社会保険料の負担が発生する
、ということになります。



 

3. 現実的には?

とはいっても、複数の給料を受け取っている場合、現実的に、すべての会社で社会保険料を負担する、という結論に本当になるのでしょうか?
 
実は、先ほどお伝えした「社会保険加入義務」の要件は、「一般従業員」が前提の話ですので、「役員」の場合は少し判断が異なってきます。
 
以下、「一般従業員」「役員」に区分して記載します。



 

(1) 一般従業員の場合

従業員数500人以下の中小企業に複数勤務する場合、両方の会社で「週の所定労働時間及び月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上」を満たすことは現実的にはあまりないと思います。
 
ただし、従業員501人以上の大企業に複数勤務する場合は、複数の会社で「社会保険料の負担」が発生するケースもありえます。



 

(2) 役員の場合

一方、役員に関しては、会社と「委任関係」にあるため、「一般従業員」のように労働時間や日数で判定するのは正しくありません。
それぞれの会社での立場や業務執行権の有無、役員報酬金額等を総合的に勘案して、会社ごとに「社会保険加入義務」が判断されます。
この結果、役員の場合は、複数の会社で「社会保険料の負担」が発生するケースもありえます。
 
日本年金機構より、役員が「社会保険の被保険者」となる「6つの判断基準」が公表されていますので、参考に記載します。

 

(役員を「被保険者」とする判断基準)~日本年金機構 疑義照会回答

① 事業所に定期的に出勤しているか
② 法人における職以外に多くの職を兼ねていないか
③ 役員会等に出席しているか
④ 役員への連絡調整または職員に対する指揮監督をしているか
⑤ 法人に対してどの程度意見を述べ、影響を与える立場にあるか
⑥ 法人からの報酬の支払いの実態
(社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないか)

 

上記に基づき、実務上は、役職に応じた「下記の判断」が行われる場合が多いです。
 

代表取締役 加入義務あり
非常勤取締役・監査役(月1回役員会参加程度) 加入義務なし
取締役 上記6つに照らして判断

 
つまり・・

  • 複数の会社で代表取締役を兼務する場合は、複数の会社で社会保険を負担する。
  • 他方の会社が非常勤取締役等の場合は、他方の会社は社会保険を負担しない。
  • 他方の会社が平取締役の場合は、報酬や影響力を考慮して負担関係を判定する。

 
というのが、実務上の結論となります。

 

4. 手続・具体例

(1) 手続

複数の会社で社会保険に加入する場合は、以下の手続を実施します。

  • 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届の提出(会社)
  • 「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」の提出(被保険者)
    被保険者が、どちらか所管の年金事務所を選択して提出)
  • すべての会社の報酬を合算して「標準報酬月額」を算定(年金事務所)
  • 各会社の役員報酬額で按分した社会保険を納付、負担(会社・従業員)



 

(2) 具体例

役員報酬をクレア社から100万円、ビズ社から100万円受け取るケース

 

(回答)

クレア社100万円 + ビズ社100万円 = 200万円の「標準報酬月額」を算定
⇒「200万の標準報酬月額」に対応する月額社会保険料を、クレア社・ビズ社それぞれで折半し、負担・納付を行う(100万円 VS 100万円)

 
なお、複数給料がある方の「月額変更届」の提出有無は、「各会社ごとに2等級以上の差額が生じた場合」のみが対象となり、改定のあった会社のみ変更届を提出します。

 

5. 年金調査にかかる最近の傾向

平成27年以降、年金事務所の調査は、従来よりもかなり強化されているようです。
従来はそこまで厳しく言われることはありませんでしたが、最近は、2か所以上給料を受け取る場合の「社会保険加入漏れ」の論点も多く指摘されているようです。
 
昨今開始されたマイナンバー制度の普及により、「税金」と「社会保険」の紐付き関係が明確になれば、今後は、未加入社会保険の指摘が、さらに多くなるかもしれませんね。

 

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